スズキ・バレーノ 「グローバル総動員で日本改造計画!?」

  またまたスズキの新型車が投入されました。直近の1年だけ見てもこれで何台目かわからないくらいの多作ぶりです。先日も「スズキの新しいクルマなんだけどね〜・・・何ていったかな?」と母親の知り合いが買ったクルマについての話になり、「ソリオ?」「違う!」「イグニス?」「違う!そんなヘンな名前じゃない」「ハスラー?」「違うな〜」「アルト?」「軽ではないよ」「SX4」「違う」「エスクード?」「いや違うな〜」「もしかしてバレーノってやつ?」「違う違う新しいクルマだよ」・・・いい加減に焦れてしまいましたが、結局スペーシアだったことが判明しました。

  なんでスズキばっかりがこれほど多作なんでしょうね。「ソリオ・バンデット」や「ジムニー・ランドベンチャー」といったフェイス違いのモデルも含めると、非常に細やかに車種が設定されていて、HPにズラリと並んだ「フルラインナップ」はまるでトヨタに匹敵するかのように壮観です。ジムニーとジムニーシエラ、あるいはスペーシアとソリオのように、軽自動車と普通車の両方の規格で同一設計のクルマを作り分けているというのも車種が多い理由ではあるのですが、やはり今のスズキ車の魅力といえば・・・他の日本メーカーとはちょっと違った生産拠点から発信される「成長市場の躍動」であり、海外生産モデルが大挙して日本に持ち込まれているのが一番大きな要因だと思います。

  日産がマーチを、三菱がミラージュをタイで生産して日本で販売していますが、どちらも販売価格を下げても利益が残る!というビジネス上の理由ばかりが先に来ていて、いまいち魅力が出てきません。営業車として活躍しているか?というとその姿を見かけることは少ないですし、販売を見る限りでは法人向けの需要はほとんど無いです。どちらも100万円を下回る価格で広告を打ちたいがために少量輸入しているだけで、実際にお客がきたらノートやデリカD2(ソリオのOEM)といった国産のやや価格が高めのクルマを勧めているようです。

  スズキも100万円以下で広告を出したいだけなのか?・・・と思いきや、海外生産モデルは「エスクード」「SX4Sクロス」そして今回の「バレーノ」はいずれもスズキのラインナップの中では上位モデルに位置します。しかもこの3台の生産地ですが、中国・ASEANといった近隣地域ではありません。部品供給が容易な日本・中国・ASEANからさらに飛び出した「開発拠点」として、スズキ・グループの両翼を担う「マルチ・スズキ・インディア」と「マジャール・スズキ」からわざわざ持ち込んでいます。

  スズキがインドに乗り込んだのは調べてみると何と35年前! 日本メーカーとして初めてホンダがアメリカに工場を作ったよりも早くからスズキはインドに注目していた!これはスゴい!当然の「先行者利益」というべきでしょうか、ずっと後から乗り込んできたVW、トヨタ、ホンダ、GM、フォード、ヒュンダイといった巨大グループを相手に圧倒的なシェアを握っています。ハンガリー(マジャール・スズキ)にはバブル絶頂期の1991年・・・冷戦終結とともにいち早く東欧圏に乗り込んでいったことで見事に成功しました!!!今ではメルセデスやBMWを始めとした西欧ブランドの多くが東欧生産をしていますが、スズキはその先駆けだったと言えます。

  GMやVWとの業務提携こそありましたが、マツダやスバルのように「身売り」をするということもなく、意欲的なグローバル展開を見事に当て続け、見事に成長市場の美味しいところを摘み取ってきたわけです。GMとの手切れでアメリカ市場から撤退し、さらにVWとの間で提携解消の揉め事に発展したときには、「スズキは大丈夫?」といったプロのライターとは考えられないようなことを書く輩もいました。軽自動車の増税など一時的な販売不調もありましたが、トヨタの尖兵「ダイハツ」と軽自動車に回帰した「ホンダ」に両面から攻め立てられてもビクともせずに、それどころか逆境を力に変えたかのように傑作車を連発して、いよいよ反撃に転じつつあります。

  「ハスラー」「アルト」「ソリオ」そして「イグニス」と粒ぞろいの国内製造モデルでそれなりに「役車」は揃っているのに、わざわざ遠いところで作っているクルマを日本に持ってこようという不可解な戦略の裏には・・・稀代のミラクルメーカー・スズキが何やら利益を度外視した「意地を張っている」ようにも感じるのです。アイディアが貧困で刺激が少な過ぎる日本市場に、「激アツ」市場の爆弾を投下してやろう! 「日本の技術」を無意味にも高らかに謳っている、少々うざったい感じのマツダ・日産・スバル・トヨタの「化けの皮」を剥いでみよう! ドイツ車?アメ車?フランス車?イタリア車?・・・個性なんかまるで無いですよ!開発を一手に引き受けるのは他ならぬボッシュなのに。

  そんな「ゴミみたいなクルマ」よりも、「マルチ・スズキ・インディア」と「マジャール・スズキ」の方が絶対に面白い!・・・おそらくそういう事を考えているスズキの幹部がいるのだと思います。何よりまずは日本で売らないと話にならないですから、とびっきり面白いクルマから順番に日本に持ってこい!という話なんでしょうね。少なくとも「マジャール」の方は相当に自信があると思います。最初に導入したスプラッシュが、いきなり日本のクルマ好きの間で話題沸騰になりましたし、フィアットでもボクスホール(GMの英国ブランド)でもオペルでもOEM車が非常に好評でした。イタリア・イギリス・ドイツで売れているのだから日本に持ってくればそれなりに話題になるはずです。2015年に「エスクード」と「SX4・Sクロス」わざわざ同クラスのSUVを2台も入れてきました。「マジャール・スズキこそが欧州をリードしていることを感じてほしい!」そんなメッセージでしょうか。

  さてさて新たにインドから投入された新型車が「バレーノ」です。一部のカーメディアは次期スイフトだと勘違いをしたようですが、FMCでも並行販売でもなく別モデル扱いのようです。インドのナンバー1自動車メーカーが自信を持って投入する新型車「バレーノ」と、日本や欧州でBセグを代表する名車として名高い「スイフト」。2台のBセグ車がほぼ同じ価格帯で同じ市場・同じブランドから販売される・・・果たしてスズキの真意はいかに。ユーザーの選択は、本当に日本や欧州のクルマに一日の長があることを示すのか??? 停滞気味の日本車ではあれ、同じ条件で正々堂々ぶっとばしてこそ!インドの下剋上が認められるはず・・・。

  日本市場で話題のクルマって一体どんなモデルなの?・・・イアン・カラムという高齢のデザイナーが、懐古趣味のような高級車デザインをするブランド。高齢の幹部が檄をとばして、ファミリーのためのミニバンを廃止してまで守るジジイのための2シーターオープンスポーツカー。挙げ句の果ては利益を確保するために、排ガス規制を潜りぬける不正にまで手を出すモラルが崩壊したブランド。 ちょっと恥ずかしいですね、考えてみればどれもこれもクソみたいなクルマ作りなんですけども、それを曲解して「すばらしい」と賞賛し続けてきたのは、なんとも滑稽なことです・・・(自戒をこめて)。

  スズキからの日本市場へのメッセージ!?なのはどうかはわかりませんが、インド車やハンガリー車がいよいよ質的に日本車と肩を並べる水準に到達し、なおも成長を続ける市場に応えるための前向きなエネルギーを感じます。ジャガーがマツダがVWが右肩上がりの市場を目の前にして作っていた時代の「名車」「名デザイン」・・・Eタイプ、コスモスポーツ、初代ゴルフ(ジウジアーロ!) なにやら青臭さがある中にも、時代に爪痕を残すだけの「勢い」がデザインに表現されていました。今回のスズキの海外生産モデルが今後どういう評価を受けるかわかりませんけども、かつての名車が持っていた「青臭さ」だけは十分にあります。

  もし「ジャガー、マツダ、VWよ!時代は変わった!目を覚ませ!」という意味の変革をスズキが意図しているならば・・・、というかそういう意図しか感じないですね。ハイブリッド・燃料電池・自動ブレーキ・自動運転などなどとことん成熟してしまった日本市場では、あと10年もすれば市販車のほとんどは「免許なし」で使える「クルマじゃない乗り物」へと変貌していくことでしょう。これでは「クルマを楽しむ文化」は衰退を避けられないでしょう。誰もがハンドルを握らなくなれば、日本中の道路で速度違反車に因縁を付けて上納金を巻き上げる「制服&手帳ヤクザ」も絶滅して、道路は再び快適なものになるかもしれないですが・・・。

  日本市場でクルマが「終わる」前になんとか再び火をつけたい!それにはずっと言われていることですが、超絶に楽しいクルマを150万円で売るしかない。VWが今回の一件でかなりのダメージを受けてしまった!VWが持っていた素晴らしいフィロソフィーをなんとか日本でも絶やさないようにしたい!「バレーノ」見て多くの人は思ったはずです。これは「VWポロ」のコピーじゃないか?と。「車体剛性を高める」「小排気量ターボ」「シンプルなデザイン」・・・VWが築いたグローバル車のトレンドを余すところなく踏襲し、日本には向かない難点とされたDCTを6ATに置き換えた・・・マルチ・スズキ製ではありますが「ポロ改・日本スペシャル」といった趣があります。

  インド製がすぐに日本で受け入れられるとは思いませんけども、スズキの努力が実を結んで「走るのが好き」な人々が堰を切ったように押し寄せる可能性も十分にあると思います。スズキの壮大な計画!?が人々の意識を変えてゆき、ついに暗黒の日本市場を切り開いたときに! 150万円のクルマに圧されて日本の生産工場は全て閉鎖の運命かもしれないですけどね・・・。なんとも難しい問題です。


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