2014年10月28日火曜日

アウディTT 「3代目が担う"近未来"とは?」

  1997年にプリウスが登場してから17年が経過しました。トヨタは先日HVの累計販売が700万台を突破したと発表がありましたが、プリウスも最初の3年間は不人気で累計で5万台程度しか売れなかったみたいです。それが10年経ってアクア(2011年)が登場する前夜には1ヶ月で5万台(国内のみ)に到達するか?というくらいまで伸びたわけですから、トヨタの辛抱が見事に実を結び、狙い通りに業界トップへとのし上がる原動力になりました。

  現在ではGMと並んでトヨタのライバルとして頭角を表してきたVWグループも、プリウスが登場した同じころに、アウディTTというセンセーショナルなデザインのクルマを発売しました。こちらはその斬新なデザインが瞬く間に世界に伝播し、プリウスとはまったく違った成長曲線を描きながらも、成功が非常に難しいとされていた小型FFの高級モデルとして業界の常識を覆す異例の成功を収めました。

  プリウスは発売当初、トヨタが意図的に設定した"近未来"的なデザインがやや不評で、ハイブリッドには期待しているユーザー側としてもデザインにはかなりの戸惑いを感じていたようです。そんな日本人が持つコンサバな自動車デザインへの潜在意識を、画期的なデザインであっさりと変えてしまったのが初代アウディTTだったと思います。このクルマを見ると思い出すのが、絶頂期のスピルバーグが監督した「A.I.」という大コケした作品です。この重苦しく悲観的な映画には「未来のクルマ」が登場しますが、そのあまりにも無機質で寒々しく描かれたデザインを見て、今後のクルマはこうなっていくのか・・・と失望したことがありました。

  街中に増殖するプリウスを見て、どこか「A.I.」が描くような悲惨な未来が近づいていることに暗澹たる想いもしました。そんな私の中のネガティブなクルマの近未来デザインへのイメージを一変させてくれたのがアウディTTです。このクルマは間接的ではありますが、受け入れられ易い未来志向のデザインという意味で、結果的にプリウスのデザインをより多くの人々に受け入れさせるアシスト役を果たしたと思います。

  さてほぼ同時期に登場した「プリウス」と「TT」ですが、プリウスは早くも来年にも4代目が登場します。一方で約8年という長いモデルサイクルを採用しているTTはいよいよ3代目が発表されました。今となってはTTのデザインは街の風景によく馴染んでいて、これを"近未来"と表現することにはやや違和感があるくらいです。もはや現代を代表する「王道スペシャルティカー」と言っても過言ではないほどで、むしろ「デザインの古典」という立ち位置にすらなってます。

  今回登場する3代目ではまた新たにどんな世界観を見せてくれるか楽しみでしたが、なんと2代目のデザインがほぼそのまま継承されています。パワユニットもほぼそのままのようで、全グレードに信頼性の高い6速DSG(湿式)が使われるようです。先代と全く同じで、「1.8TSI」「2.0TSI」「TT-S」「TT-RS」の4グレードが置かれ、「1.8TSI」は北米向けゴルフのユニット、「2.0TSI」がゴルフGTIのユニット、「TT-S」がゴルフRのユニット、「TT-RS」がTT専用の2.5L直5ターボのユニットがそのまま使われることになりそうです。

  TTのベース車となるゴルフはフロントガラスが直立したタイプの古典的なHBデザインなので、高速道路での巡航には風切り音が少なからず発生します。これは長距離ユーザーにとっては由々しき問題で、クルマ選択の際にも少なからずポイントになります。一方でcd値の低減を目指したTTのエアロボディは、ゴルフクラスのクルマをさらに高速道路で快適に走らせる能力があり、TTに使われているユニットは、その空力性能を生かす為に、VW車のベースグレードよりも排気量が大きめのエンジンが選択されています。TTの当初の位置づけはゴルフをより快適にハイウェイで走らせるというコンセプト上にあったと思います。しかし初代発売直後に揚力を抑える機構に欠陥があり、横転の危険からのリコール騒動があったため、ハイウェイ専用車というイメージは今でもあまり定着していません・・・。

  それでも同じようなコンセプトのメルセデスCLAやプジョーRC-Zが、1.6Lターボをブヒブヒさせて走るのに対して、全グレードで車重に比べて排気量と出力にかなり余裕を持たせているTTは、クルマのコンセプトとその完成度において完全に頭一つ抜けた存在と言えます。TT・CLA・RC-Zの3台ともにスポーティをテーマにしてはいますが、リアルスポーツではないので、その点を勘違いさえしなければ、どれも見所があるスペシャルティカーではあります。いずれも大きく居住性を犠牲にしているので、CセグHBにスポーツカーの車体を被せたという、なんとも捉えどころの無いクルマになっていますが・・・。

  現在の日本メーカーがおそらく頑として作らないタイプのクルマが、この3台だと思われます。ダイハツ・コペンやホンダCR-Zのような例外はありますが、いわゆる「ご近所に買い物に行くクルマ」をわざわざ高級に作るという発想は、極めて知性の高いクルマ作りに自惚れる日本メーカーのエリートはなかなか馴染まないと思います。TT、CLA、RC-Zといったタイプのクルマは、日本メーカーに言わせれば「下品」です。クルマとしての本質(走り・居住性)をことごとく放棄してまで、デザイナー達に好きに遊ばせるという企画は、エンジニアにとっては自らの影響力を下げる行為でしかありません。いままで世界最高のパッケージを作り続けてきたトヨタの車内レイアウト担当からしてみたら由々しき事態と言えます。

  もちろん作る側もこの手のクルマが長く人々の心を捕えることはないし、デザインに飽きてしまったら、ただの利用価値の低い「駄作」でしかないということもよく分っています。コペンやCR-Zは維持費の安さを考えれば、まず「駄作」の汚名は逃れられるとは思いますが・・・。「維持費が高い」「狭い」「楽しくない」の3拍子揃った・・・はさすがに言い過ぎかもしれませんが、TT、CLA、RC-Zの3台の「CセグHBベースのスポーティもどき」を購入する際には、日産フェアレディZくらいに使う状況をよく考える必要があります。ちなみにフェアレディZはピックアップトラック並みに北米向けに振ったモデルなので、日本の初心者ユーザーが買ったあとに最も後悔するクルマの1つです(もちろん大満足の人もたくさんおられますが)。

  さてアウディTTですが、VWがこのクルマに込めたコンセプトは、その個性的なデザインばかりが先行してしまって、まだ十分に理解されていないような気がします。VWが積極的に推進してきた1.2Lや1.4Lスケールへのダウンサイジングターボ戦略は、欧州ではスタンダードなものになり、それと同時に日本メーカーによる「HV大衆車」の侵入を防ぐ防波堤にもなりました。しかしVWはアウディTTにはそのパワーユニットを持ち込もうとはせずに、TTを一段高いポジションに置いた点に、ゴルフやシロッコとは同じに括れないTT独自のコンセプトがあります。1.2Tや1.5HVが東アジア・欧州・北米を覆う中で、スポーツを意識し過ぎたRC-Zや、肥大化したボディを122psのユニットで無理矢理引っ張るCLA180は、「珍車」以外の存在理由がないですが、逆に3代目TTはその崇高なコンセプトで再び輝きを増していくと思います。


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2014年10月13日月曜日

スバル・レガシィB4 「フラッグシップらしさに期待」

  いよいよ10月24日に発売が予告されたスバルの最上級モデル・レガシィが楽しみです。ちょっと気になるのが、大きな反響を持って迎えられたレヴォーグとWRX S4の完成度は最初からかなり高く(言い切ります!)、従来のレガシィのファンがごっそりと動員されてしまった感があることでしょうか。残ったのは最近のレガシィが拘って作り上げてきた「居住性の高さ」と「スバルの高度な走り」の高いレベルでの両立こそが他にはないこのクルマだけの魅力!と悟っている人々だと思うのですが、果たして日本には一体どれくらいいるのでしょうか?

  クルマ雑誌を見ていると、新型レガシィは来たるFMCで、完全に北米サイズにまで膨らんでしまい、全長4800mm級のFFベースのクルマなんて北米市場の特別仕様なので過大な期待はできない!といった厳しい論調が目立ちます。まあ確かにランエボをサーキットで走らせる感覚とは全く相容れないですから、その視点から「ドライビングの刺激が薄い」というありきたりな結論自体は間違いではないですけど、このジャンル(FFのD/Eセグセダン)を語るべき視点はもっともっと深いところにあるのに、ほとんどの日本のカーメディアがそこまで言及しようとしていないのが残念です。彼らは自動車の専門家ですので、アメリカで売れている理由も本気を出せばいくらだって列挙できるはずですが、完全にイメージ商売(人気獲り商売)と堕してしまった現状のライター業では、読者に嫌われるような本質は徹底的に無視する空気が蔓延している気がします。「ドイツ車は至高でアメ車はゴミ」という幻想は決して破壊してはいけないようです。

  まずアメリカでなぜこのクラスが売れるのか?という疑問に対して、「アメリカだから」みたいな小学生レベルの解説を平気でするライターなんてゴロゴロいます(もちろんわざとです)。「日本人とは感覚が違うから」と言われても読んでる側は困惑しかしません。ハンバーガーやポテトチップスを食べながらソファーでテレビ見る事がライフスタイルの国同士なのだから、クルマの趣味だけはまったく別ということはないはずです。バブル崩壊から20年が経ち、日本でも服・バッグ・時計・靴といったアイテムで一般ブランドの何十倍の価格を付ける高級ブランドが軒並み大苦戦する時代になってきました。その背景にはアップルのようなプレミアム価格を提示しないでも世界一のブランド価値を築く、現代アメリカの「マテリアル主義」に基づいた新興ブランドの進出があります。そしてそのマテリアル主義の"クルマ版"といえるのが北米で大ヒットしている「4800mm超のFFセダン」だったりするのですが、その現実に対して日本のカーメディアは必死に抵抗しています。

  今やオシャレな男性用スキニーカラーパンツが2500円で買えます。ちょっと前まで「高いな・・・」と思いつつバーバリーブラックレーベルやポールスミスのパンツをその10倍の価格で当たり前に買っている人が多かったですが、いまやどちらも同じ中国縫製ですし品質に大きな差なんてありません。時計だって中国で大量生産されるセイコーのクォーツを使ったデザイナーモデルが様々な新興ブランドから数千円で買えてしまいます。ネットで探せばそれこそもの凄い数の時計がありますから、その分デザインの良いものも多いですし、性能は完全にセイコークオリティです。もちろんクォーツですから200万円くらいする有名ブランドの機械式時計よりも1000倍は精度が良いです。

  「ネットの普及」とか言ってしまうと安っぽく聴こえるかもしれませんが、個人デザイナーがわずかな資本でブランドを立ち上げて、宣伝・販売をすることも容易になりました。商品さえよければ有名ブランドにライセンス料を払って商売する必要もなくなりつつあります。三陽商会がバーバリーと契約を打ち切りましたがこれも時代の流れなのかもしれません。ほかにも「ネットの普及」によって欧州で売られている良心的価格のヴィヴィアン・ウエストウッドのネクタイなども日本に居ながらに4000円程度で買える時代に突入しているわけです。輸送コストの問題があるとは思いますが、欧州で8000ユーロで売ってるフォード・エコスポーツも日本で自宅に居ながらに100万円くらいで買えてもよさそうですが・・・ちなみに日本価格は本体246万円です。

  ちょっと話がそれましたが、ほかのアイテムは価格破壊が進んでいますが、クルマだけは今でも"欧州車至上主義”が堂々とまかり通っていて、欧州車的でないクルマは徹底的に排除するといった論調が根強いです。「高級セダンはFRであるべき!」「CVTは絶対にNG」特にこの2つは、あたかも絶対的な「真理」として扱われています。ちょっと考えれば誰でも気がつくことですが、構造上「狭くて・うるさくて・危険」になることが避けられないFRに拘ることにそれほど大きな意義はないです。今では直4エンジンでもNAで200ps、ターボやHVなら300psは絞れるわけですから、むしろFRに拘ることで設計上のネガティブな点ばかりが付いてまわります。しかしそういう問題提起はプロライターの世界では絶対にタブーなようで、彼らは「余計なことを言って」レクサス・日産・メルセデス・BMWから出禁を喰らったらオワリとでも思っているようです・・・。

  しかしいくらプロライターが熱心に主張したところで、今や自動車雑誌を読んで真に受ける人なんて"アホな暇人"だけですから、通常の賢い消費者は全く意に介さずにクルマを選び、その結果エコカー・軽自動車・ミニバン・SUVが日本ではひたすらに売れています。そんな中で日本市場でもラインナップが揃い出した「北米サイズ」のFFセダンですが、4800mm超の大型ボディにもかかわらずカムリとアテンザはデザインの良さが評価され予想以上に売れました!アコードはホンダの掲げた看板の割には、デザインが振るわずやや地味な存在で、ティアナは実力十分なのですが日産の消極的な姿勢とメディアのバッシングが強くやや苦戦気味です。さてAWD専用という特殊ジャンルですがレガシィは一体どうなるのでしょうか?

  で・・・話のオチなんですが、カーメディアが絶対に伝えない「真実」として、日本のD/EセグのFFセダンを端的に表現すると、「世界で最も安全なツーリングカー」という評価ができます。燃費重視の日本車は両輪を平行気味に配置して抵抗値を下げる方向に調整するのですが、いわゆる「トーイン」を取らない方針で、これにより最近の日本のFR車は欧州車と比べてしばしば直進安定性が低いと言われています。もちろん最近やたらと燃費を気にするようになったBMWやMBの低グレード車も同じようなものなんですが、なぜかスカイラインやクラウンばかりが叩かれます。ハイウェイを安全に快適に走るならば、車高が低くてスタビリティがあり、直進安定性に優れるFFが絶対的に優位です。ハイウェィ網が整備されているアメリカでこの手のクルマ(カムリ・アコードなど)が売れるのは当たり前なことです。

  しかもFFのパッケージングの良さは車内の居住性に大きく貢献します。同じサイズのレクサスGSとカムリあるいはスカイラインとティアナの車内の広さを比べれば一目瞭然です。スカイライン(4790mm)と一クラス下のシルフィ(4615mm・FF)を比べてもシルフィの方が後席は快適だったりします。さらに決定的なのが、欧州、米国、日本の各市場で行われている衝突安全性の実験において、FF車の方が圧倒的に良い結果を出しています。この点に関しては専門家の分析など全く出されておらず、断定的なことは言えないのですが、一般にFF車で採用される横置きエンジンの方が、FR用の縦置きよりもキャビン内部に与えるダメージが小さいことと、前軸に直接リンクしているエンジンの方がマウントも強固で、駆動輪となっている前軸も重厚に作られているなどの構造上のアドバンテージが挙げられます。

  ちなみにスバルが採用している水平対抗エンジンは、比較的に車体下部に配置されるので、衝突時にキャビンに突入することはまず無く、車体下へと堕ちるように設計されているとスバルは公表しています。各市場のテストでべらぼうな高評価を連発しているアコードやアテンザといったライバルをさらに凌ぐ「安全性」を堂々と謳うスバルのコンセプトは、もっと日本ユーザーにダイレクトに伝わるといいなぁと思う次第です。


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2014年10月1日水曜日

日産スカイラインクーペ 「スカクー改めインフィニティQ60・・・さらに」

  レクサスRCの概要がやっと発表されました。すでに去年の東京MSの段階で完成していて、その段階で発売するグレードも大筋で判明していて、ほぼ予想通りのものになりました。ちょっとビックリしたのが、最初からV8搭載のレクサスRC-Fを同時発売するというレクサスとしては新しいスタイルを採用してきました。最上級モデルの先行販売はジャガー、マセラティ、アルファロメオなどの新型スポーツカー&スペシャルティカーにおける手法としては定番化していて、レクサスもそれを素直に模倣・踏襲したようです。

  元々は「サルーン」に特化したプレミアムブランドとして、独自性あるブランドイメージを構築しつつあったレクサスですが、大々的な2ドアモデルの投入によりいよいよ「何でも屋」ブランドの様相を露骨に呈してきました。日本のカーメディアはレクサスの戦略的行き詰まりを盛んにあげつらう傾向にありますが、アメリカで25年、日本で10年を経たレクサスの成長は客観的にみて、史上最速といっていいほど順調に推移していると言えます。今回のレクサスRCの投入の一番の動機は、ブランドの販売台数を大きく底上げするものでは決してなく、トヨタの技術力の高さを証明すべく投入したGS・IS用の新型シャシーがあまりにも優秀すぎる出来なので、宝の持ち腐れと批判されないように、日産やBMWと互角以上に張り合える車体剛性が高い2ドアGTカーも作ってしまおう!くらいの軽い発想によるものと思われます。

  そもそもこれまで2ドアのDセグ車は、Cクーペ、3クーペ(現4クーペ)、スカクーがわずかの国内シェアを分け合う程度であり、北米でも欧州でも日本よりは需要が多いにせよほぼ成長が見込めないジャンルでしかなく、レクサスがブランドの命運を賭けて乗り込むにはあまりにも小さすぎる市場です。ブランド全体におけるRCの役割は、これまでレクサスIS350がクルマの性能を最大限に引き出す最上位グレードとして君臨しているところに、ボデイ剛性を大幅に上げてIS350をさらに大きく上回る"超絶グレード"としての「特別仕様車」的な意味合いが強いです。RC350やRC-FによってレクサスがBMW、ポルシェ、日産に肩を並べるほどの高性能GTカー・ブランドとしての一面を持っていることを表現し、本格志向の人はこちらをどうぞ!といった程度のものに過ぎません。ポルシェがライバルの性能アップを目の当たりにして、慌ててボクスターやケイマンに新たに「GTS」というグレードを作ったようなものです。

  ただしレクサスRC-Fの場合は、おそらくドイツプレミアムのDセグを全て薙ぎ払う為に作られたISの新型シャシーの計画当初からの一つの到達点として想定されていたもので、雑誌では「フラッグシップスポーツ」などと言われてますが、レクサスのブランドイメージを決定付けるほどの重要なモデルです。ゆえにたとえ相手がGT-Rや911ターボSであってもスピード以外の部分では絶対に競り負けないとてつもない完成度をトヨタの威信をかけて必ずクリアしてくるはずですから、まず購入して後悔することはないクルマだと思います(燃費とか維持費が高すぎるかもしれないですが・・・)。それでも日本の評論家さん連中は恐ろしいですから、「(BMW M4と比べて)シャシーもハンドリングもエンジンもどれも勝っているけど・・・なんだろう何か心に残る"芯”みたいなものがない」なんてレビューが続々と出てきそうな予感がします。

  レクサスRCの設計を見るとどうやら、コンセプトのスタートラインとしてBMW4シリーズしか見ていないような気がします。4シリーズは上回るけど、そこからさらに大きく違う世界感を作ろうとはあまり考えていないようです。この無邪気なRCを後ろから密かにマークしているであろう不気味な存在なのが、日産スカイラインクーペことインフィニティQ60で、新型がいよいよパリモーターショーで発表される予定です。先日の英国メディアの報道によると、BMW4シリーズよりもいくらか大きなボディになるようで、これまでのどうも狭っくるしく感じるDセグ2ドアクーペの概念を突き破り、Eセグに近い絶妙なサイズで「ゆとり」を追加した4シリーズやRCよりもだいぶラグジュアリーなクーペになるそうです。

  新型スカイラインことインフィニティQ50のデザインを見ていると、今回の日産は近未来的なスポーツサルーンのイメージを漠然と追うのは辞めて、「男がDセグ選ぶならこれ!」とちょいワル親父に指名買いをされる現実的なポジションを目指しているように感じます。これまでのV35、V36もなかなか男性的な存在感は出してましたが、V37は女性ユーザーをさらに突き放すような不思議な渋さが備わっていて、日本では女性がやたらと乗りたがるクルマである日産のフェアレディZ(32,33,34)やシルビア(13.14.15)とはだいぶ違った印象です。そんなV37も2ドアクーペになればやはりセレブな女性のお買い物カーに成り下がってしまう可能性もありますが、おそらくVC35やVC36よりもずっと「男性的」なコンセプトを狙ってくるのではないかと思います。

  V37セダンは「アメリカン・マッスルカー」と「ジャーマン・プレミアムカー」の両方のデザイン要素を兼ね備えているせいか、なかなか見慣れない不思議な表情をしています。このクロスオーバーな佇まいが災いして、残念ながら日本の日産ファンの一部からの大ブーイングを浴びてしまっているようです。彼らはスカイラインがつまらない高級車になってしまったと肩を落としますが、実際のところは「高級車」なのか「クラスレス」なのかよくわからない立ち位置であって、セレブが注目するようなラグジュアリーかつセクシーさを強調したような派手さ一辺倒なクルマでは決してないです。むしろ質実剛健で性能面を最も重視した実直なクルマ作りという意味で"日産"に相応しいクルマだと思います。このクルマをベースに一体どれだけセクシーなクーペが出来るのか全く想像ができませんが、4シリーズやRCのデザインに顕著な「わざとらしさ」「未熟さ」をダサいを感じて納得できなかった「大人」な人々に応えられるように、基本に忠実な「ワイド&ローでマッチョ」なスタイリングを狙ってくるような気がします。

  フェアレディZともGT-Rとも異なる需要をしっかりと吸収することが、インフィニティQ60に課せられた最大の使命であり、「女性専用車」のZと「最善主義」のGT-Rからこぼれ落ちた「渋さ(アダルトさ)」「ラグジュアリー」「重厚感」「男性的クーペ」がテーマであり、ライバルの4シリーズやRCも現状を見る限りは、この4点においてを落第点の水準です。2ドアクーペに600万円以上掛ける客層の人間性を過大評価し過ぎで、もっと本質的に「ガキっぽく」「知性がない」「品格がない」ユーザーばかりだから、この4点を重視することは無意味という意見もあるでしょうが、日産にはこのジャンルに巣食った「軽薄さ」「ダサさ」を一掃するような強烈な1台を期待したいです。

  このQ60とは別に今月のパリ・サロンでは「フーガクーペ」となるQ80も発表されることが既に予告されています。こちらは4ドアスペシャルティカー仕様になっていて、日産が宿敵ポルシェのパナメーラを北米市場で叩くために独自に開発した新型モデルのようです。提携相手のメルセデスから出ている大型スペシャルティカーの尖兵となった「CLS」は発売直後こそ話題沸騰でかなりの販売台数を記録しましたが、10年経過してクルマの基本コンポーネンツがメルセデスの水準からみて低いレベルにあることが世間にも浸透しつつあり、北米ではパナメーラやギブリに大きく遅れをとるようになっています。後から追加されたクーペワゴンのシューティングブレイクも車体の設計が極めて杜撰で、高級車にはあるまじき乗り心地の悪さと静音レベルの低さが酷評の対象になってしまいました。

  北米で日本車が同クラスのドイツ車のどれよりも高い価格で売られる!という快挙を達成したインフィニティのQ50(スカイライン)とQ70(フーガ)は、日産が持つ高級車ノウハウが世界最高の水準にあることを見事に証明しました。同クラスのレクサスGS・ISも徐々にメルセデスやBMWを超える価格設定をするようになっていますが、最も高価なのはインフィニティです。プレミアムブランドのD・Eセグを制した「技術の日産」がいよいよ「レクサスLS」と「Sクラス」というトヨタとメルセデスの"頂点"と対峙する量産モデル(ややジャンルは違うけど価格帯では接近?)をグローバル市場に投入します。これによって風通しが悪く硬直化した高級車市場に新しい旋風が巻き起こされ、自動車文化の活性化につながればいいとは思いますが・・・。



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