ホンダS660「ゆるスポもいいけど、ゆるセダンも期待!」

  最近のホンダのアグレッシブ過ぎな「動き」を見ていると、その戦略のうちで「一体どこまでが計算通りなのか?」とヤキモキさせられることが多いです。果たして軽自動車がバカ売れしたことはよかったのか? プライベートジェットの開発では、もはや気分はロールスロイスなのか? いやいや相変わらずホンダの根幹は二輪事業ですよ!なのか・・・。各部門がそれぞれに目覚ましい働きをしていて素晴らしい!のは確かなんですけど、あまりにも全方位に向けて開発資源を「撒き散らしている?」気がしなくもないです。

  さて四輪普通車部門はというと、「フィット」シリーズは相変わらずトヨタを徹底的に挑発し続けていて、2014年度はプリウスを見事に上回り来年度に向けてアクア越えも完全に射程に入ってきたようです。これと同時に軽自動車の「Nシリーズ」で見事にダイハツとスズキのシェアをあっさりと掻っさらった挙げ句、同時期に大展開を行ってきた「日産=三菱」という技術力を誇るタッグの軽自動車にも大差で勝利していることを考えると、今では完全に「小型車はホンダが圧勝」と言ってもいいかもしれません。そしてさらに新型SUVである「ヴェゼル」が各メーカーの新型モデルによる「群雄割拠」な状態の国内SUV市場で見事に頂点に立ちました。

  「だけど、アコードHVはさっぱりだったね・・・」という意見もあるでしょうが、このクラス(中型セダン)に関しては日本車・輸入車問わずほぼ全てのモデルが例外無く敗れ去る「鬼門」になっています。結局のところアテンザもスカイラインもクラウンも話題性の割には大して売れていないのだから、みんな「イマイチ?」「健闘?」といったところで、アコードだけがまあ言ってしまえば「惨敗」なんですけど、「だから何だ?」って思います。最初っから日本ではやる気がなかったアコードに対して、マツダ(アテンザ)などの力の入り方は「異常」と言えるほどで、何とか再び日本市場にセダン熱を甦らせるといった決意が込められていたとは思いますが、結局のところマイカー選びの大きな流れを変えることができないままに収束しつつあります。実際に日本市場においてはアテンザではあまり利益が上げられていないはずです。最初から「ドライ」な対応だったホンダがある意味で正解だったとも言えます。

  国内での「動き」だけでもなかなか追い切れないホンダのダイナミックな戦略ですが、海外に開発拠点を置いたスポーツモデルでも、なかなかとんでもないところに噛み付いています。先日のジュネーブモーターショーにも登場した「シビックtypeR」は、ニュルブルックリンクでFF量産車の歴代最高のタイムを叩きだして話題になりました。もともと「市販車クラス最速」というのがtypeRの絶対的なコンセプトであるようで、2000年頃から「世界最速」の触れ込みで、スモールカーなのに最高速度237km/hとかに達していたような気がします(当時はこれでも相当に速い!)。要するに常に頂点を求める崇高なホンダの精神が宿ったとてもホットな「伝統モデル」だったと記憶しています。

  ベース車のシビックがいつの間にやら日本で消滅してしまったことで、カーメディアは「日本車に真のホットハッチなんてないよね〜・・・」なんて適当なことを言ってたりしますが、イギリスで生産される「シビックtypeR」は日本車にはならないのでしょうか・・・? かつてホンダと英国の「MG」との間で合弁事業があったことから、イギリスに古典的な開発・製造拠点を持っていて、現在もそれを利用しているわけなので、単なるノックダウン生産目的でメキシコやらタイの工場で作られるのとは訳が違うと思うのですけどね・・・。

  このシビックtypeRが地力の違いを見せつけようとしているのが、「ルノー・メガーヌ・ルノースポール」というモデルだそうです。ルノーは量販車は同グループの日産の技術を安く使って仕上げておいて、ルノー本体ではせっせと「スポーツカー作り」という道楽に励んでいらっしゃいます。もし日産が傘下になかったらルノースポールなんて悠長なプロジェクトはとっくに消滅していたとは思いますけどね・・・。日本車(日産)にグループの貢献利益の多くを依存しつつも(稼がせておいて)、フランスの腑抜け公務員(ルノーは官民合同)どもが「お気楽」に作るスポーツカーってのはなんか気分が悪いですね。そんな調子に乗ったルノーに日本を代表して制裁を加えるためにホンダが立ち上がった!なんてのはちょっと脚色し過ぎかもしれないですけど・・・応援したくなります。

  さて発売するタイミングがさっぱりわからない新型「NSX」にも言及しますと、コンセプトは単純にポルシェとフェラーリとGT-Rに喧嘩を売りました!ということらしいです。ガチンコなスポーツカーを開発するときのホンダの仕事ぶりは、それこそ「ポルシェ以上だ!」と叫んでもいいほどで、非常に完成度が高いです。中にはCR-Zみたいな「お気楽」なクルマも含まれていたりしますが、このクルマもアメリカではなかなか熱い支持をうけているのだとか。しかし何といっても初代「NSX」と「S2000」の出来はさすがで、今でもその伝説は風化しておらず、颯爽と日本の各所を走っているのを見かけます。どちらのクルマも登場した年代を考えれば、「NSX」はブランド力以外の部分で完全にフェラーリを凌いでますし、「S2000」もポルシェの同タイプモデルと言える「ボクスター」を完全に喰ってしまうほどのストイックな設計になっています。中古車市場で最終世代(2009年式)の「S2000」と同時期の「ボクスター」を比べると、どちらも400万円台で同じ価格帯となっています。NSXの晩年に登場した「NSX-R」のプレミア価値は、やはり同じようにフェラーリの通常モデルを相手に回して互角の相場を誇っています。

  しばしばカーメディアなどで「ホンダはもう終わった」みたいな論調がありますが、今でもとにかく「ホンダは凄い!」です。ここまでいろいろなジャンルの最先端にガチンコ勝負を挑んでいるメーカーは世界を見渡してもないです。「軽自動車の頂点」と「スーパーカーの頂点」を同時に見据えているいるという破天荒なヴィジョンの先には、「デスorグローリー」な結末が待ち構えていそうですが、それでもこのメーカーには前向きな期待しかないです。そんなホンダが最近にやたらとリークしているのが、「S660」の開発主査を務める高卒26歳の椋本陵さんというヒーローの登場!という演出です。S660を買う人の中で26歳以下の割合なんてせいぜい5%でしょうから、「ガキたれの作ったスポーツカーなんて・・・」と敬遠されるリスクもあるわけですが、その一方でクルマは売れなくても、ホンダはちゃんと若い人にもチャンスを与える優れたメーカーだ!という、閉塞感に苦しむ日本の若者の関心を惹くニュースは発信できそうです。

  それにしても26歳での責任あるポジションへの抜擢って、実際には相当に大変だったと思います。歴代のマツダ・ロードスターの開発主査がスポーツカー作りでもっとも大切なのは「エゴ」だと言い切ってたりするわけですが、26歳では関係部署の挨拶回りもなんだか「ご用聞き」みたいな感じになちゃうんじゃないですかね。これでとんでもない「ドグマ」を抱えたクルマに仕上がっていたら、「とんでもない26歳だ!」ってことになるんですけど、やはり現実は・・・たとえエンジンやら空力やらに不満があったとしても、それを相手に率直に伝えるのはおろか、微妙な異議を申し立てるのも非常に難しいと思います。私があれこれと言う立場には全くないわけですが、出来上がった「S660」は何もかもが想定の範囲内に収まっていて、赤・青・黄といった想定内のものの他に特別な塗装が用意されるわけでもなく、やや「話題不足」な感じが否めないです。

  ホンダは「面白いこと」を全力でやってくれるので、その仕事ぶりには感心しますし、スピリッツを感じます。「S660」にもそういったクルマであって欲しいとは思うのですが、どうも背景を見つめると、いろいろ懸念すべき材料があるような気がします。「ゆるスポ」というアイディアが採用されてそのまま主査になったそうですが、できれば「ゆるセダン」も企画して実現してほしいです。新開発の2LのVテックターボだと車両コストに跳ね返る?それならば是非にアコードのNAエンジンモデルを日本にも投入してくれないですかね・・・。



  

  

  


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