BMW1シリーズ・MC 「外見はゴルフ、中身はポルシェ・ケイマン!」

  俗に「羊の皮を被った狼」と形容される高性能車は、日本では今も昔も根強く好まれていると思います。ホンダやマツダなど西日本に本拠があるメーカーはやたらと派手な高性能車を作る傾向にある一方で、東日本のメーカーはスバル・三菱・日産には地味なエクステリアで高性能!というモデルを作ってきました。歴代のエボやインプのように巨大なリアスポイラーが付いていても「羊の皮を被った」になるのかよくわかりませんが、富士重工や三菱のファンは、ある種の哲学を全うしてきたこれらのブランドに深い愛着を持ち続けてきました。見た目はごくごく一般的なスモールカー(Cセグ車)なのだけれども、エンジン出力は300ps以上でその走りはCセグサイズのスポーツカーの頂点を極めるポルシェ・ケイマン/ボクスターをも凌ぐ・・・そんなクルマへの憧れは今もなお続いています。

  スバルや三菱は「300psのスモールカー」という設計を成立させるためにAWDが必須という結論ありきで開発を進めてきました。誤解を恐れずに「日本発」と表現してしまいますが、どちらもその人気は国内にとどまらず、WRCでの活躍を背景に自動車先進国が集まる欧州でも高い評価を受けました。そもそもバブル期に作られた日本のスポーツカーは軒並み絶賛され、ホンダNSX、S2000、インテグラtypeR、シビックtypeR、マツダRX-7、トヨタMR-S、日産240SX、スカイラインGT-Rなど全方向的に活躍モデルがありました。その中でも欧州メーカーには技術面でなかなか真似できなものが、エボとインプの「AWD&ターボ」というストリートで圧倒的な戦闘力を発揮するタイプでした。

  「インプレッサSTI」と「ランエボ」に対抗できるだけのAWDシステムを使ってスポーティに仕上げた欧州ブランドは2001年の段階ではアウディだけで、それもDセグのA4アバントをベースとした1800mmというワイド仕様で、余裕のあるシャシーを使って6気筒エンジンを使うというものでした。単純にV6ターボで380psというスペックは当時は欧州にも正規輸入が行われていたスカイラインGT-Rに匹敵するかなり強烈な直線番長モデルでした。たしかに見た目はただのワゴンでまさに「羊の皮を被った狼」でしたが、日本での販売価格はおよそ1000万円にもなっていて、これはインプやエボの3倍近い価格ですから、「羊」じゃなくて「シマウマ」くらいだと思います。しかしこのアウディ「RS4アバント」から日本式(エボ&インプ)を模した高性能スモールカー(ジャパンスポーツとか名付けたい!)の開発が欧州メーカーの間でも盛んになり、さらにターボ技術が欧州車の間で広まったこともあり、アウディ以外のメーカーからも次々と発売されるようになりました。

  スバルと三菱が大切に育ててきた「羊の皮を被った狼」的なジャンルですが、残念なことに現在では完全に欧州メーカーに乗っ取られてしまった感があります。今ではこのジャンルを代表するモデルとして語られるのは、「ゴルフR」「メルセデスA45AMG」といった富士重工&三菱を踏襲したAWDタイプのものと、FRシャシーを生かしたBMWの「M135i」がそれぞれに妙味がある価格で販売されています。RS4アバントが1000万円した時代から10年以上が経過して、今ではゴルフRやM135iならば600万円前後まで乗り出し価格が下がっています。これを安いと見るか高いと見るかは意見が分かれるところでしょうけど。

  0-100km/hの加速が公式で4.9秒にまで引き上げられた、ビッグマイナー後の「M135i」の狙いはいよいよ、ちょっと大げさかもしれないですが、「ポルシェを猟るハッチバック」への大いなる脱皮にあるようです。今回は200万円台まで本体価格を下げたベースグレードを投入し、若年層の取り込みを図っているようで、ハイスペックなトップグレードを広告塔にして、ベースモデルを大ヒットさせるという戦略は、バブル期のシビックや日産パルサーを彷彿させます(といってもドイツブランドの定番の戦略になりつつありますが・・・)。

  BMWが日本の若者の関心を再びクルマへと向けるような展開をしている?かどうかはわかりませんが、BMWが作ればEVもディーゼルも注目されるようになってその力をまざまざと見せつけたのは間違いないです。相変わらずの偉大なブランド力と熱心なファンを維持する理由は、下世話なプロモーションではなく、クルマ作りにおいて常に高いアベレージを達成してくる姿勢は今も素晴らしいと思います。日産、ホンダ、マツダといった技術自慢の日本メーカーが続々とBMWのモデルを名指しでベンチマークしてきます。日本メーカーの技術力を前面に打ち出した「飛び道具」主義に対して、BMWがやや劣勢に見えることもあるのですが、雑誌の企画などで複数のメーカーのモデルを乗り比べて、なんだかんだで総合的に高得点を獲るのがBMW車だったりします。これって結構素晴らしいことじゃないですか。

  日産もマツダもホンダも国内市場では大きな影響力が発揮できないポジションに甘んじています。いずれも新興国向けモデルの拡充を図って将来の基盤を作ろうとしていますが、日本でおなじみの中型モデルは日本でも欧州でも大きな進展は見込めず、次世代の展開は全く見えてこない状況です。付加価値の高い中型車が生き残るためには、主要市場で「BMWに勝つ」ことが必須で、どうしても「飛び道具」を頼みにした開発になってしまう実情があります。しばしば日本メーカーの継続性の無さがBMWのようなブランド構築を阻害していると言われます。確かに日産の直6は消え、ホンダの自然吸気Vテックもマツダのロータリーも完全に引退モードになっています。

  BMWもまたVWグループによって本国ドイツから追い出され気味であり、自慢のマルチシリンダーを引っさげて「最後の楽園」である北米で確固たる地盤を確保しようと奮闘しています。VWゴルフが全く相手にされていないように、欧州のクルマ文化が全く通用しない中で、BMWらしさで独自の市場を築こうとする「攻めの姿勢」を日産、ホンダ、マツダも見習ってほしいものです。たしかにアメリカでは、日本流の「羊の皮を被った狼」は全く人気がないようで、1シリーズそのものがラインナップすらされていません。しかしBMWが日本の為にわざわざ右ハンドルで作ってくれている、しかも日本車への深いリスペクトが感じられるこのモデルを、マイナーチェンジでさらに大きく進化させたBMWに、日本の自動車ファンとして最敬礼の気持ちでいっぱいです。ぜひ皆様も一度お試しください。

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