2015年11月14日土曜日

トヨタ・クラウンアスリート 「ここから何か始まるのか?それとも終焉の時か?」

  自動車評論家の福野礼一郎さんの書籍はいつ読んでも面白いです(賞味期限無し)。だいたい発売直後に購入してざっと読むのですが、その段階では読み手(私)にはまだ発表されて間もない新型車へのイメージなんて全くできてないですから、ニュアンスがわからない表現もあれこれ出てきます。そのままほっぽらかした本を1〜2年寝かしてから読むと、出てくるクルマに試乗したり見かけたりするようになってイメージが固まってきているので、改めて福野さんの文章が楽しめたりします。

  2年ほど前に出版された「福野礼一郎・クルマ論評2014」という傑作がありまして、これをほぼ1年ぶりくらいに開いて見ると・・・改めてこの評論家の素晴らしい視点がいくつも発見されて、初めて読んだときよりもむしろ興奮できます。特に「トヨタクラウン」と「クライスラー300」を比べる一節が良かった!!!2年前はなんとも思わなかったのに、今読んでみると妙にリアリティがあります! もちろん2年前の本ですから、クラウンはフルモデルチェンジ直後で、クライスラー300は先代バージョンということになります。

  福野さんのクセ?あるいは意図的なのかもしれないですが、高級輸入車で幅広く使われるようになったZF社製の8速AT(通称8HP)のミッションをそこいら中の連載で「神!」「神!」「神!」と表現しています。・・・ということは8HPを装備しているクライスラー300が優位か?というと、そうでもなくクラウンアスリートの3.5Lモデルに採用されているアイシンAWの8速ATの方が、滑らかでショックも少ない!とはっきり断言しています。エ?エ?エ?「神」ってどういう事?・・・と読者を煙に巻いてくれます。なんとも便利な表現ですね。福野ワールドの「神」ということならオールOK?

  BMWとレクサス(FRガソリンモデル)のどちらにも乗ったことがある人ならわかると思いますが、「ZF」も「アイシンAW」も結局のところどっちもどっちな印象でしかないですし、あのミッションが付いているからそのクルマが素晴らしい!という結論にはならないです。しかし2000年頃のBMWやトヨタの中古車に付いてまわったミッションの段付き感を考えれば、それから開放されて、福野さんが「神」といいたくなるほどの「高ぶり」もなんとなくわかります。この段付き感さえ消えてくれればこのクルマを心から愛せるのにな・・・という過去のほろ苦い経験なんでしょうね。福野さんはおそらく「常にクルマに寄り添う」非常にやさしい心の持ち主なんだと思います。

  さてそんな「クラウン&クライスラー300」の評論で、印象に残ったのが「新しいクラウンは改造車的だ」という表現です。余計な説明などないのでその真意は不明です。もしかしたら言外にクラウンの基本設計の古さを示唆したのかもしれないですし、伝統のフラッグシップに注がれるトヨタの情熱を指しているのかもしれない、それともトヨタ車にしては感動的なほどに「手数」が多いという意味でしょうか?

  「改造車的クラウン」・・・なんだかこのクルマの抱える現実を打破できそうなミラクルな響きがします。ハイブリッドを業界のスタンダードへと押し上げることに心血を注いできた、1997年からの約15年間においてトヨタはクルマ好きの期待に報いることがほとんどできませんでした。これはモリゾー社長みずから公式の会見で述べた所感であり、その反省を生かして「86」「RC-F」を作ったとも言っています。確かにこの2台は、真剣にクルマ選びをすればするほどに、重要な選択肢であると認識させられますね・・・。どちらも文句なしにクルマ好きに愛されるモデルです。

  トヨタが「86」や「RC-F」よりもさらに手数をかけて、クラフトマンシップを誇示するべきクルマが「クラウン」だと思います。このクルマにとって少々悲劇なのは、セルシオ(レクサスLS)を派生させるなど国内外のメーカーに絶えず刺激を与えてきた「クラウン一族」の直系でありながら、国内市場では7割以上がハイブリッドで選ばれていることです(電気式CVTは・・・)。今や「BMW」「マセラティ」「キャデラック」「ジャガー」といった名だたるラグジュアリー・メーカーの主力を担うEセグセダンは明らかにクラウンの乗り味を志向しているのに、国内ユーザーはそんな「亜流」のフォロワーばかりに興味振々で、クラウンを買うユーザーは何も考えずにハイブリッドを買う・・・確かにトヨタのマーケティングが仕掛けたシナリオなのかもしれないですが、これはあまりにも切ない光景です・・・。

  さて現行モデルに使われるシャシーは2代前のデビュー時に更新され12年がすでに経過しています。日産のスカイラインも同じく3代に渡ってシャシーが使われていますが、なにやら次のモデルはメルセデスのものを使うことになるのだとか・・・。クラウンのシャシーも引退が既定路線ですが、次はいよいよ燃料電池車になってしまうのか? クラウンと共通の設計を使っていたレクサスGSは現行モデルから新型シャシーに変わりました。こちらは「全世界プレミアム展開」を狙って、ドイツ車を越える水準の高い剛性を誇るシャシーを作ってきました。

  BMWはクラウンを目指し、クラウン派生のレクサスはBMWを目指す・・・といったねじれた関係は、これまでもトヨタと日産、BMWとメルセデスなどでしばしば起こって現象ではあります。しかしその先に待っていた結末は必ずしもお互いを高めあって最高のものができたというのではなく、なんだか味の薄いクルマに結実して評判を落とすケースの方が多かった気がします。例に漏れずに・・・といったら失礼かもしれないですが、ドイツ車を超越した新型シャシーが投入されたレクサスGSやISは、本当に歴代トヨタのどれよりも素晴らしいクルマだったでしょうか?

  果たして次世代のクラウンはどうなってしまうのか? レクサスのシャシーを流用して「能書スペック」を備えたグローバル・セダンになってしまうのでしょうか、それともミライを高級車調にしたプレミアムFCVに生まれ変わるのでしょうか? それとも・・・モリゾー社長の英断で、「トヨタのクラフトマンシップ」を誇るノスタルジックな「永遠のクラウン」を描くのでしょうか。福野さんが2年前にふと言い出した「改造車的クラウン」・・・果たしてこのフレーズがトヨタのインスピレーションになったかわかりませんが、クラウンに新たに2L直4ターボ搭載の「改造車的グレード」が追加されました。先に登場したレクサスISの2L直4ターボ(245ps)よりややデチューンして235psとなったエンジン・・・なかなか芸が細かいです。

  「86」の2L自然吸気で200ps出しているので、輸入車のように2Lターボで180psといったパワーの出し惜しみなんてことはできません。ターボチャージャーの設定による「出力の量り売り」なんて下劣なやり方は日本メーカーには絶対に真似してほしくないですね。そんなゴミみたいな商売に血道を挙げているから、排気ガスを意図的に操作するなんて下劣な手段を厭わなくなるのかな? 

  日本車でもっとも長い歴史を誇る「クラウン」。ぜひ憧れのクルマとして長く残してもらいたいです。幸い?なことに中小企業の社長さんのクルマという役割は、レクサスやアルファードへと分散しているようです。400万円は若者が乗るには高嶺の花ですけれども、頑張って働いて乗ってやる!と思わせてくれるクルマへと、脱皮するのも「86」や「RC-F」を手掛けるトヨタであればそれほど難しいことではないと思います。スバルのアイコンが「WRX」であるように、「クラウン」をトヨタのアイコンに位置づけて、トヨタグループのネットワークをフル動員して、スバルSTIのS207のような「コンセプトカー」を発売するモデルに位置づけてみるなんてどうでしょうか?

  例えば・・・
最近提携したマツダからディーゼルを調達して積んでみる。

一緒にMTも導入して装備してみる。

スバルのHVシステムをトヨタが取り入れて「走りのクラウンHV」をつくる。

ついでにSTIのチューンによって足回り(ビルシュタ)とブレーキ(ブレンボ)を強化した「クラウンアスリートSTI」をつくる。

提携先のBMWにお願いして「クラウンアスリートM」をつくる。エンジンはもちろん直6。

アルピナにチューニングをしてもらって「アルピナ・クラウン・ビターボ」をつくる。やっぱりエンジンは直6。

提携しているロータスに納入している3.5Lスーパーチャージャー(406ps)を積んだ「クラウン+M」をつくる。


まあなんでもいいですけども、「VIPカー」という日本発信のクルマ文化がアメリカを席巻している!クラウン派生のドリ車「チェイサー」が東南アジアで人気!などなど、長い間国内専売だったはずのクラウンの魅力は、勝手に世界に羽ばたいていっているわけで、これらを見る限りではこのクルマの将来をトヨタが悲観する必要なんてないと思います。おそらく福野さんもクラウンのそういう素晴らしい側面をちゃんと見据えた上で「改造車的クラウン」という新しいキャッチコピーを打ち出してくれたのではないでしょうか?

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