フォード・マスタング 「伝統か?実用か?それとも・・・」

  国産車シェアが世界でも異例の9割を誇る日本市場・・・だから「もっと輸入車が売れなければおかしい!」みたいなことを言ってくる自動車評論家がたまにおられます。大手マスコミが発信するネットメディアの記事でも、「ガラパゴス」とかこれに近いようなことが盛んに書かれてますけども、じゃあアメリカでは国内販売の30~50%が輸入車なのか?というとそんなことはありません。日本メーカーの直近のアメリカでの販売で月間10万台以上を販売しているのはトヨタ、ホンダ、日産の3グループですが、現地生産の比率はトヨタ75%、日産80%、ホンダ99.99%です。米国ビッグ3の台数を合わせると・・・アメリカにおけるアメリカ生産車の割合はやはり9割程度になります。

  もちろんアメリカはNAFTAを早くから結んでいて、カナダやメキシコとの経済の連携を強めているわけですから、まだTPPが成立しない「ボッチ」の日本とは状況が違って生産拠点がNAFTA全域に広がっていますから、NAFTA内となると日本を上回る割合になるかもしれません。同じようにEU域内を一つの経済圏と考えると、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアといった主要市場におけるEU生産車の販売の割合も9割を越えます。要するに「日本だけが9割」という主張は残念ながら根本的に間違っているのです。あくまで国内メーカーが占める割合が9割です。つまりバブル期以降で日本に生産拠点を構えたり委託したりする海外メーカーが「ほとんど」無かったよ!という話です(割と最近までシトロエンのSUVが三菱のOEMで倉敷で作っていた!なんて例もありますが・・・)。

  で?何でマスタングなの? って話なんですが、遥か昔にフォードはマツダにマスタングを作らせようと意図したことがありました。結局はフォード内部の反対があったようで、完成していたマスタング候補車は「プローブ」という名でアメリカでも日本でもフォードブランドで販売されました。このクルマは実際はミシガン州で製造されたようですが、もしこの時に「マスタングの設計をマツダに任せる!」という決断が下っていたなら、その後のマスタングの開発拠点は広島に移っていたかもしれません。・・・そんな「たら、れば」な話をしていても仕方ないですけども、もし海外メーカーが今後わざわざ生産拠点を日本に設けるとするならば、マスタングのような趣味性の高いクルマの製造を委託するのであればメリットがあるのでは?と思います。

  フィアットから新しくマツダ・ロードスターの設計をそのまま使ったライトウエイトスポーツカーが登場するようですが、この日本製フィアットは世界からどういう評価を受けるのでしょうか。最近のフィアットグループの傘下ブランドでは、日本市場をよく研究していて、なかなか買いやすい価格設定で注目を集めることが多いです。このフィアット版ロードスターは日本で作りますから当然に他のフィアット車よりも輸送費用も低減されますし、マツダが生産するのだからマツダの販売に遠慮する必要もないですので、興味深い価格が設定されて、予想以上に日本で売れる?かもしれません。余談ですがアルファロメオ4Cの価格にはイタリアからの搬送に基づく費用が見積もりにハッキリと項目が付けられて盛り込まれます(約10万円)。単にアルファロメオは全てイタリア製です!とアピールするのが狙いでしょうけど。

  どう考えても「ロードスター」と「マスタング」は全然別のクルマですから、ロードスターの例がそのままマスタングに通用しないかもしれません。しかし今年から販売が始まっている新型マスタングに乗ってみて感じたことですが、レクサスやBMWに本気で対抗しようと言うのなら、出来ることならどこかの日本メーカー(もしくはドイツメーカー)と組んだ方がいいのでは?と思いました。先代同様にスタイリングは素晴らしいですし、マツダとの合弁でつくったアメリカの拠点で製造しているので、マツダの伝統芸とも言える塗装技術が見事に注入されています。

  エクステリアに対して内装はちょっと・・・、確かに先代よりも質感は相当に良くなっていますけども、欧州の伝統モデルが大切にしているインパネのアナログ感をこれでもか?というくらいに徹底排除したデザイン。このボタン多過ぎなインターフェースはどうなの???これがアメリカで流行の「メカ=インパネ」です(レクサス、インフィニティなど日本ブランドが流行らせたという説も)。

  肝心の走りですが、開発期間が足りなかったという情報もありますけど、後輪を独立懸架にしたことの影響が素人でも十分にわかるほど・・・まあ言ってしまえば違和感あります。ちょっとラフなハンドリングをすると横Gが予想以上に「グギャ・・・」と腹筋あたりに襲ってきます。BMW乗りと一緒に試乗に行ったのですけども、彼の「らしい」運転で左ハンドル車の助手席という普段は運転している位置で感じたヤンチャな挙動は確かに他のクルマと違っていて、目隠ししてもマスタングだってわかるくらいです!この揺さぶりを良しとするならば、確かに走り好きを一発でノックアウトできるチャームポイントではあります! クーペボディから来る剛性感の高さ、車幅1900mmから予想できる広大なトレッド幅、極太タイヤによるグリップ・・・、これらさまざまな要素が合わさって出来上がった「仮想のトルクハンドルレバー」で、クルマの重心を軸にして車体をキュルキュルと回す感覚に近いかも・・・ちょっと大袈裟?

  ケーニッグセグやブガティといったスーパーカーブランドのクルマの剛性桁違いで、一説によると(市販車で最強レベルの)マクラーレンやレクサスLF-Aのさらに3倍にもなるそうです。そんなクルマがミッドシップの超絶出力で旋回すれば、マスタングで感じるような「キュルキュル感」の比ではないのでしょうけども、500万円で買えるマスタングでこれだけのスリリングなフィールが楽しめるならお買い得だと思います。スポーティさを求めるならこのクルマは相当に高い評価が与えられます。「マスタングはデカいロードスターだ!」・・・なんて大層なことを言ってみても、じゃあ買うならロードスターで良くない?ってことになるだけですけど。

  でもマスタングに注目している人は、おそらく誰一人としてこんなロードスター的な要素なんて期待してないと思うんです。そんなガチ過ぎる走りの性能よりも、流麗なデザインから想像できるラグジュアリーな雰囲気を楽しみたい人が多いと思います(偏見?)。そしてオールドデザインの復刻モデルですから、ミニ、ザ・ビートル、フィアット500といったクルマを可愛くて欲しくなる人とツボはほぼ同じです。そうじゃないと左ハンドル&直4ターボという「謎のスペック」がここまでカルト的な人気を誇る理由がいまいちピンと来ません・・・(フォードもビックリ!なほどデザインだけで売れちゃった?)。

  伝統的なアメリカンスタイルのカーライフをこのクルマで楽しみたい人は、とりあえずアメ車らしいV8モデルの発売を待っているでしょうし、フォードのクルマ作りの先見性を理解して、このクルマが日本市場でもベストバイな存在になりうる「実用車」だと感じている人は、アメ車という発想を無視して、使い勝手がいい右ハンドルの投入を待っているはずです。・・・しかしこのクルマはもはや「キュルキュル」な乗り味ですから、アメリカンスタイルなクルマ(アメ車)の要素はほとんどありません(インパネがアメリカ生まれを主張している?)。またメルセデスやBMWのように日本で広く受け入れられているドイツ車と比べてしまうと、どうも「実用性に潜む心地よさ」が幾分足りないのでは?という気がします(熟成不足だけではいいわけ出来ない「粗雑」さを感じる!)。

  マスタングは今のところは「アメ車」でも「プレミアムクーペ」でもない・・・「デカいロードスター」という特殊なジャンルに属するクルマだと思います。運転していて楽しいですけども、このクルマで5時間はちょっとシンドイか・・・シフトのタイミングで不可思議な横揺れが発生して、落ち着かないのでちょっと不安になる!なんてことはレクサス、インフィニティ、メルセデス、BMWではなかなか考えられない(メルセデスのFFでは・・・)です。これはリンカーン・マスタングではない!フォード・マスタングなんだ!と高らかに宣言して、新しいクルマとして日本市場でブレイクする余地はあるとは思いますけども、日本のアホ評論家にケチョンケチョンにされる前に、テスラモデルSのように、どっかから高性能車が「作れる」連中を連れてきた方がいいかもしれません。

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