ゴルフⅦ 「さまよえる合理性の極地」

  「ゴルフというクルマ」と「マツダというブランド」はある意味でよく似ている。それはどちらも、かつては「安物」という表現がよく似合う「模倣」だらけの存在だったが、今では開発を続けて来た20年あまりの歴史そのものが評価されるようになってきている点だ。だからという訳ではないだろうが、「マツダ」のファンは「ゴルフ」が嫌いだったりするし、「ゴルフ」ユーザーは「マツダ」ブランドを軽くみる傾向にある気がする。

  「ゴルフ」がクオリティカーとして評価できる装備になったのは、2003年に発売された「ゴルフⅤ」からである。それ以前の「ゴルフⅣ」までのモデルはエンジン、足回りともに、現在の日本車の最廉価車と大きな差はなく、重くて燃費が悪くて、止まれないというヒドいクルマだった。ただ1点大きく優れていたのは、ほとんど特別なコストをかけていないのに、日本価格で250万円で売ることが出来たので、貢献利益が非常に大きかったことだ。当時のライバル車のホンダ「シビック」はスポーツカー並みの4輪DWBを履いていたし、トヨタ「カローラ」はカローラ史上最高レベルの豪華装備を誇っていた時期だった。よって日本車の採算ラインはゴルフよりも圧倒的に高く、値引きが自在にできるゴルフにしばしば負けるようになった。

  当然ながら「過剰品質」のシビックやカローラは、コストの見直しを図り始めた。これまでの品質に満足していたユーザーからは、当然ながら不人気になっていった。その一方で2003年のタイミングで発売された「ゴルフ」はこれとは逆の高品質化に舵をとった。ここでVWが巧みな戦術を駆使する。高品質化といっても欧州と日本に投入するモデルのみを「ゴルフⅤ」として新型化する一方で、既存のゴルフⅣの生産ラインを南アフリカやメキシコに移設し、「ノックダウン」方式で2006年まで「ゴルフⅣ」も平行して生産が行われた。新興国市場ではカローラにコスト面で迫り、一方で欧州の新たなライバルのフォード・フォーカスを始めとする「フォードグループ」の新型ハッチバック(マツダアクセラなど)を「ゴルフⅤ」で迎え撃った。

  この「ゴルフⅣ」と「ゴルフⅤ」はあまりにも方向性が違うクルマなので、VWもかなり意図的に4年にも及ぶ「2世代共存体制」を取ったが、まさにこの4年間こそが日本市場におけるカローラとシビックを運命を決めてしまったと言える。トーションビームを履いたカローラやシビックと比べてマルチリンクを履く「ゴルフⅤ」は性能面で有利だった。まだマツダアクセラは日本には浸透していないマイナーな存在だったし、スバルインプレッサはハッチバックモデルが存在していなかったので、日本市場でのゴルフはライバル不在といえる存在となり、その評価はどんどん上がっていった。2000年代のゴルフは絶妙な戦略を駆使してそのブランド価値を上げたと言える。 (次回に続く)

↓ダウンサイジング特集なのでゴルフⅦが登場しそうです。この雑誌は輸入車と日本のクオリティカーのみを扱うのでとても素晴らしいと思います。

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