アウディTT 「3代目が担う"近未来"とは?」
1997年にプリウスが登場してから17年が経過しました。トヨタは先日HVの累計販売が700万台を突破したと発表がありましたが、プリウスも最初の3年間は不人気で累計で5万台程度しか売れなかったみたいです。それが10年経ってアクア(2011年)が登場する前夜には1ヶ月で5万台(国内のみ)に到達するか?というくらいまで伸びたわけですから、トヨタの辛抱が見事に実を結び、狙い通りに業界トップへとのし上がる原動力になりました。
現在ではGMと並んでトヨタのライバルとして頭角を表してきたVWグループも、プリウスが登場した同じころに、アウディTTというセンセーショナルなデザインのクルマを発売しました。こちらはその斬新なデザインが瞬く間に世界に伝播し、プリウスとはまったく違った成長曲線を描きながらも、成功が非常に難しいとされていた小型FFの高級モデルとして業界の常識を覆す異例の成功を収めました。
プリウスは発売当初、トヨタが意図的に設定した"近未来"的なデザインがやや不評で、ハイブリッドには期待しているユーザー側としてもデザインにはかなりの戸惑いを感じていたようです。そんな日本人が持つコンサバな自動車デザインへの潜在意識を、画期的なデザインであっさりと変えてしまったのが初代アウディTTだったと思います。このクルマを見ると思い出すのが、絶頂期のスピルバーグが監督した「A.I.」という大コケした作品です。この重苦しく悲観的な映画には「未来のクルマ」が登場しますが、そのあまりにも無機質で寒々しく描かれたデザインを見て、今後のクルマはこうなっていくのか・・・と失望したことがありました。
街中に増殖するプリウスを見て、どこか「A.I.」が描くような悲惨な未来が近づいていることに暗澹たる想いもしました。そんな私の中のネガティブなクルマの近未来デザインへのイメージを一変させてくれたのがアウディTTです。このクルマは間接的ではありますが、受け入れられ易い未来志向のデザインという意味で、結果的にプリウスのデザインをより多くの人々に受け入れさせるアシスト役を果たしたと思います。
さてほぼ同時期に登場した「プリウス」と「TT」ですが、プリウスは早くも来年にも4代目が登場します。一方で約8年という長いモデルサイクルを採用しているTTはいよいよ3代目が発表されました。今となってはTTのデザインは街の風景によく馴染んでいて、これを"近未来"と表現することにはやや違和感があるくらいです。もはや現代を代表する「王道スペシャルティカー」と言っても過言ではないほどで、むしろ「デザインの古典」という立ち位置にすらなってます。
今回登場する3代目ではまた新たにどんな世界観を見せてくれるか楽しみでしたが、なんと2代目のデザインがほぼそのまま継承されています。パワユニットもほぼそのままのようで、全グレードに信頼性の高い6速DSG(湿式)が使われるようです。先代と全く同じで、「1.8TSI」「2.0TSI」「TT-S」「TT-RS」の4グレードが置かれ、「1.8TSI」は北米向けゴルフのユニット、「2.0TSI」がゴルフGTIのユニット、「TT-S」がゴルフRのユニット、「TT-RS」がTT専用の2.5L直5ターボのユニットがそのまま使われることになりそうです。
TTのベース車となるゴルフはフロントガラスが直立したタイプの古典的なHBデザインなので、高速道路での巡航には風切り音が少なからず発生します。これは長距離ユーザーにとっては由々しき問題で、クルマ選択の際にも少なからずポイントになります。一方でcd値の低減を目指したTTのエアロボディは、ゴルフクラスのクルマをさらに高速道路で快適に走らせる能力があり、TTに使われているユニットは、その空力性能を生かす為に、VW車のベースグレードよりも排気量が大きめのエンジンが選択されています。TTの当初の位置づけはゴルフをより快適にハイウェイで走らせるというコンセプト上にあったと思います。しかし初代発売直後に揚力を抑える機構に欠陥があり、横転の危険からのリコール騒動があったため、ハイウェイ専用車というイメージは今でもあまり定着していません・・・。
それでも同じようなコンセプトのメルセデスCLAやプジョーRC-Zが、1.6Lターボをブヒブヒさせて走るのに対して、全グレードで車重に比べて排気量と出力にかなり余裕を持たせているTTは、クルマのコンセプトとその完成度において完全に頭一つ抜けた存在と言えます。TT・CLA・RC-Zの3台ともにスポーティをテーマにしてはいますが、リアルスポーツではないので、その点を勘違いさえしなければ、どれも見所があるスペシャルティカーではあります。いずれも大きく居住性を犠牲にしているので、CセグHBにスポーツカーの車体を被せたという、なんとも捉えどころの無いクルマになっていますが・・・。
現在の日本メーカーがおそらく頑として作らないタイプのクルマが、この3台だと思われます。ダイハツ・コペンやホンダCR-Zのような例外はありますが、いわゆる「ご近所に買い物に行くクルマ」をわざわざ高級に作るという発想は、極めて知性の高いクルマ作りに自惚れる日本メーカーのエリートはなかなか馴染まないと思います。TT、CLA、RC-Zといったタイプのクルマは、日本メーカーに言わせれば「下品」です。クルマとしての本質(走り・居住性)をことごとく放棄してまで、デザイナー達に好きに遊ばせるという企画は、エンジニアにとっては自らの影響力を下げる行為でしかありません。いままで世界最高のパッケージを作り続けてきたトヨタの車内レイアウト担当からしてみたら由々しき事態と言えます。
もちろん作る側もこの手のクルマが長く人々の心を捕えることはないし、デザインに飽きてしまったら、ただの利用価値の低い「駄作」でしかないということもよく分っています。コペンやCR-Zは維持費の安さを考えれば、まず「駄作」の汚名は逃れられるとは思いますが・・・。「維持費が高い」「狭い」「楽しくない」の3拍子揃った・・・はさすがに言い過ぎかもしれませんが、TT、CLA、RC-Zの3台の「CセグHBベースのスポーティもどき」を購入する際には、日産フェアレディZくらいに使う状況をよく考える必要があります。ちなみにフェアレディZはピックアップトラック並みに北米向けに振ったモデルなので、日本の初心者ユーザーが買ったあとに最も後悔するクルマの1つです(もちろん大満足の人もたくさんおられますが)。
さてアウディTTですが、VWがこのクルマに込めたコンセプトは、その個性的なデザインばかりが先行してしまって、まだ十分に理解されていないような気がします。VWが積極的に推進してきた1.2Lや1.4Lスケールへのダウンサイジングターボ戦略は、欧州ではスタンダードなものになり、それと同時に日本メーカーによる「HV大衆車」の侵入を防ぐ防波堤にもなりました。しかしVWはアウディTTにはそのパワーユニットを持ち込もうとはせずに、TTを一段高いポジションに置いた点に、ゴルフやシロッコとは同じに括れないTT独自のコンセプトがあります。1.2Tや1.5HVが東アジア・欧州・北米を覆う中で、スポーツを意識し過ぎたRC-Zや、肥大化したボディを122psのユニットで無理矢理引っ張るCLA180は、「珍車」以外の存在理由がないですが、逆に3代目TTはその崇高なコンセプトで再び輝きを増していくと思います。
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現在ではGMと並んでトヨタのライバルとして頭角を表してきたVWグループも、プリウスが登場した同じころに、アウディTTというセンセーショナルなデザインのクルマを発売しました。こちらはその斬新なデザインが瞬く間に世界に伝播し、プリウスとはまったく違った成長曲線を描きながらも、成功が非常に難しいとされていた小型FFの高級モデルとして業界の常識を覆す異例の成功を収めました。
プリウスは発売当初、トヨタが意図的に設定した"近未来"的なデザインがやや不評で、ハイブリッドには期待しているユーザー側としてもデザインにはかなりの戸惑いを感じていたようです。そんな日本人が持つコンサバな自動車デザインへの潜在意識を、画期的なデザインであっさりと変えてしまったのが初代アウディTTだったと思います。このクルマを見ると思い出すのが、絶頂期のスピルバーグが監督した「A.I.」という大コケした作品です。この重苦しく悲観的な映画には「未来のクルマ」が登場しますが、そのあまりにも無機質で寒々しく描かれたデザインを見て、今後のクルマはこうなっていくのか・・・と失望したことがありました。
街中に増殖するプリウスを見て、どこか「A.I.」が描くような悲惨な未来が近づいていることに暗澹たる想いもしました。そんな私の中のネガティブなクルマの近未来デザインへのイメージを一変させてくれたのがアウディTTです。このクルマは間接的ではありますが、受け入れられ易い未来志向のデザインという意味で、結果的にプリウスのデザインをより多くの人々に受け入れさせるアシスト役を果たしたと思います。
さてほぼ同時期に登場した「プリウス」と「TT」ですが、プリウスは早くも来年にも4代目が登場します。一方で約8年という長いモデルサイクルを採用しているTTはいよいよ3代目が発表されました。今となってはTTのデザインは街の風景によく馴染んでいて、これを"近未来"と表現することにはやや違和感があるくらいです。もはや現代を代表する「王道スペシャルティカー」と言っても過言ではないほどで、むしろ「デザインの古典」という立ち位置にすらなってます。
今回登場する3代目ではまた新たにどんな世界観を見せてくれるか楽しみでしたが、なんと2代目のデザインがほぼそのまま継承されています。パワユニットもほぼそのままのようで、全グレードに信頼性の高い6速DSG(湿式)が使われるようです。先代と全く同じで、「1.8TSI」「2.0TSI」「TT-S」「TT-RS」の4グレードが置かれ、「1.8TSI」は北米向けゴルフのユニット、「2.0TSI」がゴルフGTIのユニット、「TT-S」がゴルフRのユニット、「TT-RS」がTT専用の2.5L直5ターボのユニットがそのまま使われることになりそうです。
TTのベース車となるゴルフはフロントガラスが直立したタイプの古典的なHBデザインなので、高速道路での巡航には風切り音が少なからず発生します。これは長距離ユーザーにとっては由々しき問題で、クルマ選択の際にも少なからずポイントになります。一方でcd値の低減を目指したTTのエアロボディは、ゴルフクラスのクルマをさらに高速道路で快適に走らせる能力があり、TTに使われているユニットは、その空力性能を生かす為に、VW車のベースグレードよりも排気量が大きめのエンジンが選択されています。TTの当初の位置づけはゴルフをより快適にハイウェイで走らせるというコンセプト上にあったと思います。しかし初代発売直後に揚力を抑える機構に欠陥があり、横転の危険からのリコール騒動があったため、ハイウェイ専用車というイメージは今でもあまり定着していません・・・。
それでも同じようなコンセプトのメルセデスCLAやプジョーRC-Zが、1.6Lターボをブヒブヒさせて走るのに対して、全グレードで車重に比べて排気量と出力にかなり余裕を持たせているTTは、クルマのコンセプトとその完成度において完全に頭一つ抜けた存在と言えます。TT・CLA・RC-Zの3台ともにスポーティをテーマにしてはいますが、リアルスポーツではないので、その点を勘違いさえしなければ、どれも見所があるスペシャルティカーではあります。いずれも大きく居住性を犠牲にしているので、CセグHBにスポーツカーの車体を被せたという、なんとも捉えどころの無いクルマになっていますが・・・。
現在の日本メーカーがおそらく頑として作らないタイプのクルマが、この3台だと思われます。ダイハツ・コペンやホンダCR-Zのような例外はありますが、いわゆる「ご近所に買い物に行くクルマ」をわざわざ高級に作るという発想は、極めて知性の高いクルマ作りに自惚れる日本メーカーのエリートはなかなか馴染まないと思います。TT、CLA、RC-Zといったタイプのクルマは、日本メーカーに言わせれば「下品」です。クルマとしての本質(走り・居住性)をことごとく放棄してまで、デザイナー達に好きに遊ばせるという企画は、エンジニアにとっては自らの影響力を下げる行為でしかありません。いままで世界最高のパッケージを作り続けてきたトヨタの車内レイアウト担当からしてみたら由々しき事態と言えます。
もちろん作る側もこの手のクルマが長く人々の心を捕えることはないし、デザインに飽きてしまったら、ただの利用価値の低い「駄作」でしかないということもよく分っています。コペンやCR-Zは維持費の安さを考えれば、まず「駄作」の汚名は逃れられるとは思いますが・・・。「維持費が高い」「狭い」「楽しくない」の3拍子揃った・・・はさすがに言い過ぎかもしれませんが、TT、CLA、RC-Zの3台の「CセグHBベースのスポーティもどき」を購入する際には、日産フェアレディZくらいに使う状況をよく考える必要があります。ちなみにフェアレディZはピックアップトラック並みに北米向けに振ったモデルなので、日本の初心者ユーザーが買ったあとに最も後悔するクルマの1つです(もちろん大満足の人もたくさんおられますが)。
さてアウディTTですが、VWがこのクルマに込めたコンセプトは、その個性的なデザインばかりが先行してしまって、まだ十分に理解されていないような気がします。VWが積極的に推進してきた1.2Lや1.4Lスケールへのダウンサイジングターボ戦略は、欧州ではスタンダードなものになり、それと同時に日本メーカーによる「HV大衆車」の侵入を防ぐ防波堤にもなりました。しかしVWはアウディTTにはそのパワーユニットを持ち込もうとはせずに、TTを一段高いポジションに置いた点に、ゴルフやシロッコとは同じに括れないTT独自のコンセプトがあります。1.2Tや1.5HVが東アジア・欧州・北米を覆う中で、スポーツを意識し過ぎたRC-Zや、肥大化したボディを122psのユニットで無理矢理引っ張るCLA180は、「珍車」以外の存在理由がないですが、逆に3代目TTはその崇高なコンセプトで再び輝きを増していくと思います。
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