カローラ クロス (2025年5月MC)
トヨタ最強の成長株
日本市場のカローラ・シリーズは、「セダン」、「ツーリング(ワゴン)」、「スポーツ(ハッチバック)」、「クロス(SUV)」のグローバル4車種と5ナンバーの旧モデル国内専用2車種が設定されている。日本では「クロス」7000台 / 月、「ツーリング」3500台/ 月、「セダン」1000台 / 月、「スポーツ」1000台 / 月だそうで、確かにクロスとツーリングを見かける頻度が高い。4車種とも価格競争力は相当に高いけども、セダンやハッチバックは日本では人気がない。
これがアメリカ市場だと「ツーリング」以外の3車種、ドイツ市場だと「セダン」以外の3車種となる。日本の人気とはやや違っていて「スポーツ」と「クロス」の2車種がグローバルではシリーズの核となっている。北米市場では「スポーツ」にはHEVの設定がなく、「セダン」の非HEVモデルとともに、ブランドのボトム価格専用車として販売されているのに対して、「クロス」は2Lガソリン(169ps)と、他のシリーズにはない2LのHEV(196ps)の2ユニットが用意され、カローラシリーズの「主役」だ。
北米と欧州でもシェアを伸ばす
日本市場に「GRスポーツ」として導入されている2LのHEVは、北米市場では「クロス」の全HEVに搭載される。一方ドイツ市場では「スタイル」「ラウンジ」の上級仕様のみで採用される(ベースグレードは1.8LのHEV、非HEVはなし)。「クロス」のHEV車は、北米やドイツでは相互関税の影響もあってか450万円以上の価格で設定されている。日本市場のGRスポーツが389万円なので、まずは北米&ドイツに優先的に割り当てているのだろう。日本と同じく右ハンドルのイギリス市場では、なぜか「クロス」は導入されていない。
今回のビッグMCによってドイツ市場と同じく、日本市場でも全車HEV化が行われた。ガソリン車の廃止で平均単価は上昇し、販売面でも悪影響がありそうだが、「セダン」と「ツーリング」に関しては、すでに国内市場ではライバル不在の状況で、むしろガソリンモデルの割安感によって、トヨタの他のラインナップの価格設定に悪影響が出ていた。クラウンやハリアーなどの上位モデルとの価格差が開き過ぎたので是正したのだろう。
国内ではライバル不在
「スポーツ」のライバル車としては、MAZDA3ファストバックの1.5Lガソリンのお得なパッケージ「iセレクション」が230万円で設定されているが、HEVのカローラスポーツは248万円〜で、MAZDAと異なりトヨタではナビはオプション扱いで15万円ほど余計にかかる。それでも「スポーツ」の販売数は、元々から少ないので大勢に影響なしと考えたのだろう。いくら車格が同じとはいえ1.5Lのガソリン(MAZDA3)と、1.8LのHEV(カローラスポーツ)が同じ土俵というのも無理がある。
日本メーカーの国内向けCセグでは、MAZDA3セダン、インプレッサ、シビックに関しては、カローラとの価格競争はすでに諦めていて、走り・デザイン・質感といったクルマの価値で勝負している。カローラでのカーライフでは全く満足できないユーザーが一定数いて、これらのこだわり(車好き)ユーザーを3車で分け合っている。ワゴンに関しては、カローラツーリングの独壇場になっていて、ホンダもMAZDAもアメリカ市場で売れないワゴンの開発には興味を持てないようだ。
トヨタ VS ホンダ
ライバル不在でトヨタも頑張る必要がない「セダン」「スポーツ」「ツーリング」に対して、「クロス」は、現在の自動車業界の勢力構図に直結する「小型SUV」ということもあり、ホンダ・ヴェゼル、ホンダ・WR-V、MAZDA・CX-30、スバル・クロストレックなど各メーカーが最も勢力的に投資しているモデルとの際どい攻防は避けられない。日本市場で7000台 / 月のカローラクロスではあるが、同じく6000台 / 月のヴェゼルと3500台 / 月のWR-Vで対抗するホンダ勢に対して、やや劣勢という見方もできる。
ヴェゼルが好調に売れ続けているのに加えて、インドからの輸入にも関わらず3500台/ /月を売り上げてしまうWR-Vの大成功は、自動車業界全体に衝撃を与えている。適正価格であるならば、海外からの逆輸入でも十分に勝負ができてしまう。岩手県(トヨタ東日本)から、福岡県(トヨタ九州)まで、組み立て子会社を抱えて、日本の雇用を守ることを社是とするトヨタは、小型SUVの競争でホンダに遅れを取るわけにはいかない。
トヨタの仁義なきマーケティング
ホンダ陣営を切り崩すため、カローラ クロスにだけ特別にフロントマスクの変更などFMC級の大改良が施された。すでに国内生産のヴェゼルは、ボトムグレード(264万円)を除いて、全てHEV化を実現している。HEV比率は95%を超えるようだ。ヴェゼルのHEV最廉価グレードは288万円で、カローラ クロスのHEVは276万円なので、対ヴェゼルに関してはガソリン車を廃止しても大勢に影響はなさそうだ。
新たに投入されたインド生産のWR-Vは1.5L自然吸気(118ps)のみの設定で239万円〜となる。カローラ クロスでこの価格に張り合うのは無理があるので、カローラ ツーリングのHEVのスタート価格を249万円から235万円に引き下げる荒技でWR-Vよりも安い価格を実現している。さらにWR-Vより一回り小振りなボデーになるがヤリスクロスはガソリン車が190万円、HEVが229万円で、販売台数は4000台 / 月で、ユーザーをしっかり取り込んでいる。
利益率の改善
一方でカローラクロスも、賃上げ圧力が強まっている日本での生産を維持するためには単価を上げていく必要がある。生産を担当するトヨタ自動車東日本は、カローラ クロスは、ヤリス、ヤリスクロス、アクア、シエンタなどトヨタのラインナップの価格優位性を請け負う小型車の生産が多い。トヨタの国内生産拠点は他に直営4工場、トヨタ車体、トヨタ九州、ダイハツがあるが、トヨタ東日本とダイハツは利益率の低い車種を押し付けられている。トヨタ東日本にとってはカローラクロスの国内販売によっては、今後の死活問題となる。
元々はASEAN地域への戦略車として開発されたカローラクロスなので、日本とアメリカ以外に、タイ、中国、台湾、マレーシア、パキスタン、南アフリカ、ブラジルなど生産国は多岐に渡る。2021年に日本に導入され、ガソリンモデルは218万円という脅威の低価格で、あっという間に受注停止に追い込まれた。東南アジアからの輸入ではなく、日本生産を軌道に乗せるためのダインピング価格で話題作りを行い、IC不足を理由に3000台 / 月くらいに販売を抑えた。直近の半年ではそれが7000台 / 月となっているからトヨタの世論操縦は上手過ぎる。
ユーザーの囲い込みがエグい!!
HEVのみ276万円となったが、前期モデルのちょっと古くさいデザインは一新され、前期モデルを買った人や生産終了となったC-HRからの買い替え需要を掘り起こすのだろう。トヨタでは3年車検時での乗り換えのリセールはかなり良く、実際に売買した知人に聞いた金額であるが、カローラクロスもカローラツーリングも新車乗り出しから100万円も下がらないらしい。新たに導入された2L・HEVも単純にプリウスの販売不調でユニットが余ったという理由だけでなく、前期からの乗り換えを喚起するのにちょうど良い起爆剤なわけだ。
今時の新車販売は、徹底した理詰めの戦略でユーザーをごっそり獲得していくのだろうけど、カローラクロスの変貌ぶりは、トヨタのマーケティング戦略が他社を圧倒していることが、とてもよくわかる。北米市場では現地生産のカローラクロスの台頭で、日本から輸出していたC-HRとベンザ(ハリアー)の販売が終了した。相互関税の長期化によって、北米生産を行わないハリアーやC-HR(現行はトルコ生産のみ)の存在感は低下し、北米市場でも7万台 / 年を突破したカローラクロスがRAV4に続く第2のSUVとなっている。このクルマはどこまで成長していくのか!?今後の動向に注目したい。
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