アルファロメオ・ジュニアibrida (2025年6月新モデル)
美しいクルマ
MAZDA乗りは、大方の予想通りだと思うが、街中で見かける周囲のクルマに対して、少なからず優越感がある。トヨタ、日産、ホンダ、三菱、レクサス、BMW、ボルボのデザインはちょっと理解不能なくらいで、語彙力なく一言で表現するなら「ダサい」でしかない。スバルやスズキは最近デザインが良くなってきているとは思うが、あくまで上から目線である。メルセデス、ポルシェ、アウディなどドイツ車は・・・なんだか中国メーカーっぽく見えてしまう。
デザインにうるさいMAZDA乗りが、街中で出会うとちょっと自信を無くしてしまうのが、アルファロメオだ。現行のジュリアやステルヴィオは登場からかなりの年月が経過しているが、MAZDAデザイン以上に風化しない。それどころか絶版モデルの147、156、159、166、GT、ブレラなど2000年代のデザインは、登場から20年過ぎてもエゲツないオーラを放っている。デザインが良いMAZDA車に乗っているという優越感が、アルファロメオの前では呆気なく失われる。
MAZDAとアルファロメオ
アルファロメオに新型車ジュニアが追加され、大中小の3段階のSUVが揃う。なんだかMAZDAのようなSUV主体のブランドになってきた。日本市場で現行SUVをデザインで妥協せず選ぶならば、ステルヴィオ、CX-60、CX-80、ディフェンダーがラージサイズSUV、トナーレ、CX-5、レンジローバー・イヴォークがミドルSUV、ジュニア、CX-30、CX-3、DS3がスモールSUVの選択肢になる。レクサスRX、LBX、ハリアー、ヴェゼルで十分にカッコいいと満足できる人には反論があるだろうけど、デザインで世界の頂点に立つブランドは隙がない。
2024年に120万台販売したMAZDAと、6万台のアルファロメオでは全く比較にならない気もするが、6万台規模でも欧州、日本、北米、豪州などほぼ全ての主要市場で展開されている。MAZDAと同じでCセグ以上の全モデルを北米市場に投入している。全モデルがイタリア製という本国生産ポリシーが、日本でも北米でも高いクオリティを求めるユーザーに支持されている。さらに北米市場を意識した高性能なモデルがあまりに高額になり過ぎて、2024年の日本市場では前年比で40%も販売台数が減ってしまったところもMAZDAに似ている。
特殊なビジネスモデル
少量生産で存続できるのは、アルファロメオが「メーカー」というよりは、「チューナー」に近いビジネスモデルになっているからだろう。2000年代まではアルファロメオが創業したアレーゼで開発&生産が行われていたが、現在では開発部門はトリノ(フィアット本拠)に移されていて、各モデルの生産はフィアットのイタリア各地の工場で行われている(アレーザ工場は閉鎖)。フィアットが開発・生産を担当するクルマを、「アルファロメオ」として仕上げることに特化していて、光岡自動車、BMWアルピナ、ACシュニッツァー、ブラバスなどのチューナーに近い存在になっている。
縦置きエンジンのジュリアやステルヴィオは、同時期に発売されたマセラティ・ギブリとシャシーが共用され、マセラティにはない直4エンジンは、ジープの2.0L横置き直4ターボ(ハリケーン)と一括で開発されていて、ボア✖︎ストロークのサイズは全く同じになっている。トナーレは横置きとなり、ジープのコンパス、チェロキーに使われる三菱設計のシャシーを使い、イタリア生産で北米向けのダッジ・ホーネットと共通設計だ。日本向けマイルドハイブリッドには1.5Lターボが新開発で搭載されたが、北米市場向けは、ジープと同じ2Lターボ(ハリケーン)に変更になっている。
手頃な価格で良いクルマを作る
フィアット=クライスラーの他ブランドとの共通設計ばかりを使って仕立てられる2015年以降のアルファロメオだけども、経営努力の甲斐もあって、販売台数が多いBMWのライバル車と比べても同程度の価格でより高性能なモデルが選べる設定で、ジュリアの登場から10年に渡って販売を続けるくらいの売り上げは維持してきた。BMWの唯一無二なドライバビリティに対して、アルファロメオは絶対的なサーキットの速さは追求しないけども、ファン・トゥ・ドライブの高まりを感じさせるこだわりはユーザーに広く伝染している。
プジョー=シトロエンやオペルとの合流を果たし、大同団結「ステランティス」が組まれ、アルファロメオの扱うクルマも幅は広がった。アルファロメオは2025年以降の新型車はBEVのみになると発表している。2024年に登場したジュニアibrida がアルファロメオのエンジン車としては最後の企画になるようだ。1.2Lターボ48Vマイルドハイブリッドに6速DCTを組み合わせるユニットと、シャシーはフィアット600Hybrid、ジープ・レネゲード、ランチア・イプシロン(日本未導入)、シトロエンC4と共通のもので、ステランティス全体で「マスゲーム」を仕掛けてきた。
クルマの価値を追求
日本市場のユーザーの感覚だと、日本車とドイツ車の性能や生産技術は、他の地域の追従を許さないというバイアスが捨てられない。ステランティスが一斉に投入した新型ユニットも、トヨタ・ライズやスズキ・クロスビーの小排気量ターボと比べてしまうところがある。もちろん車両価格は約2倍なので、エンジンもモーターも高性能なものになっていて、1300kg級の車重を150ps前後のシステム出力で引っ張るのだから、とりあえずMAZDA3の2Lエンジン級のスペックだと予想できる。
シャシーもプジョー=シトロエン時代に開発されたEMP1を使用していて、マイルドハイブリッドでもBEVでも運用できる汎用性の高いBセグ用シャシーを使っている。ライズやクロスビーの軽自動車向けシャシーでは、車重1600kg級のモデルを仕立てることは難しいだろうが、EMP1派生のe-CMPシャシーで作られるBEVは1600kgを超えるものもすでに登場している。エンジンは1.2L直3ばかりだけど、このシャシーはBEVで本領発揮するらしい。日本には導入されていないが、ジュニアには本命グレードはBEVの240ps版もある。
クラフトマンシップ
ステランティスの各ブランドはそれぞれのテイストで、同じシャシー&パワーユニットのクルマにキャラクターを付けている。見た目が違えば個性というわけではなくて、ユーザーのカーライフにどのように深く切り込むか?をデザイナーが考え抜く過程で、イタリア人、フランス人の価値観が織り込まれていくことで、日本メーカー車とは違う世界観を作り出す。メルセデスやBMWなどのドイツのプレミアムブランドは、内装&機能を他国のサプライヤーに丸投げできるまで車両価格が高騰しているが、日本市場で400万円台の攻防をするジュニアだと自社でやるしかない。
フェラーリ、ランボルギーニ、パガーニなどスーパーカーのイメージが強いイタリア車だけど、イタリア経済の実態はG7で日本と実質賃金ワースト1を争うような「貧乏な先進国」だ。イタリア企業が所有するグレングラント蒸留所(スコットランド)の「アルボラリス」というシングルモルトは、英国、日本、台湾のモルトウイスキーと比べても極めてリーズナブルだし、イリーのエスプレッソ粉も最高の味わいながら日本での正規販売でも格安で手に入る。イタリアと日本はものづくりが上手いばかりにクラフトマンシップが暴走し、価格は安いのに高品質に作ってしまう面がある。消費者にとっては嬉しいことだけど・・・。
日本市場に変革はあるか!?
アルファロメオ初の本国以外の生産(ポーランド生産)となるアルファロメオ・ジュニアだけど、イタリアメーカーらしい「庶民感覚」もあって非常に好感が持てる。2015年のジュリアは価格を抑えた設定ながら、スポーツツアラーとして「唯一無二」の味わいを備えて、日本でもアメリカでも予想以上に売れた。2000年代のモデルのイメージもあって、アルファロメオは価値あるクルマを手頃な価格で買える優れたブランドという一定の評価を得ている。
MAZDAとアルファロメオがクルマ作りをやめてしまったら、趣味でクルマを買う人は激減するのではないかと思う。各メーカーの現行モデルが高齢者向けのクルマばかりになって、若い人が無理してクルマを買いたいとは思わなくなった。「中途半端なクルマなら要らない」という声もよく聞く。トヨタも日産もガソリン撒き散らして走る経済感覚ゼロな高級車しかない。ジュニアibridaのモード燃費は非公表だが、同じ工場で生産される兄弟車は23km/Lを記録している。調べれば調べるほど興味が湧くクルマなので、日本市場の販売回復に貢献すると思う。
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