フィアット600Hybrid (2025年6月追加)
ハイブリッドモデルの追加
フィアットを代表するモデルと言えば長らく「500(チンクエチェント)」だった。ルパン三世が乗っている戦前モデルのリバイバルとして2007年に登場し、日本でも街中でもよく見かける定番車になった。残念ながら2024年でポーランド工場の生産が終了し、日本向けの販売も終了するとのことだ。そのポーランド工場では代わりにグローバルの市場変化に対応したBEV専用モデルとして誕生したジープ・アベンジャーとフィアット600eの生産が始まり、どちらもすでに日本市場に投入済みだ。
新規のBEVモデルではあるけども、2024年にイタリアの工場で生産が終了したBセグSUVの「500X」の後継モデルの位置付けでもあるため、新たにマイルドハイブリッドで電動化を施した1.2Lターボ搭載の「600Hybrid」が追加された。「500X」は2014年に小型SUVのブームによって登場した。その前身となるモデルも存在していてフィアット・セディチは、スズキのハンガリー工場で生産されるSX4のOEMモデルだった。スズキのOEM車を日本市場には投入できなかったが、FCAのイタリア工場に生産が移管された「500X」と「ジープ・レネゲード」からどちらも日本市場に投入されている。
ステランティス設計
先代の「500X」で使われていたシャシーは、FCAとGMのコラボで設計されているようで、GMの小型車部門はスズキが担当していたことから、SX4(セディチ)の設計がベースになっていると考えられる。セディチには先代のスイフトスポーツで使われていた1.6L自然吸気が搭載されていたが、「500X」ではフィアットの1.4L直4ターボ(2019年から1.3L直4ターボの新開発エンジン)となり、フィアットが得意とする小排気量エンジンを使うモデルとなった。
新たに登場した「600Hybrid」には、1.2L直3ターボが搭載されるが、フィアットの1.2Lは4気筒でNA専用なので、ステランティスのアライアンスを使って調達されたプジョー=シトロエン陣営で広く使われる汎用エンジンが搭載されることになった。プジョー、シトロエン、DSの日本向けモデルは、トヨタ系サプライヤーのアイシンAW製トルコンATを装備するが、「600Hybrid」には供給されておらず、「500X」に引き続きDCTを装備する。
500Xか?600Hybridか?
フィアットの日本法人(CIAOフィアット)では、先代「500X」の生産終了はアナウンスされておらず、販売が続いている。レンタカーにも供給されていて、フリート販売による在庫車が多いのだろう。412〜435万円の設定でキャンバストップの限定車もあり、イタリア生産車という付加価値もあるので興味深い。ボデーサイズはヤリスクロス(ハイエンドで315万円)と同程度だけど、エンジンは151psで、内装デザインはトヨタとはまるで違ったエモーショナルな造形をしている。ノーマルユニットのレクサスLBX(460万円)と比べれば、十分にお買い得だと思う。
「600Hybrid」は前述のようにポーランド生産で、1.2Lの直3に変わったけども、フィアットのマイルドハイブリッドが強力で、システム出力は145psまで上げられている。レクサスLBXに匹敵するような豪華内装で、レザー&運転席パワーシート標準装備となっている上級パッケージ(ラ・プリマ)だけども、ローンチ限定価格399万円で、かなり「弱気」な価格設定だ。発売から10年が経過する「500X」は4気筒でインテリアもエンジン車っぽい計器やスイッチが目立つ造形なのに対して、「600Hybrid」はBEVっぽいシンプル過ぎる内装に変わっている。デザインも走りもまるで異なる両方を所有して楽しむ人を世間ではエンスーと言う。
小型SUVの質感はどんどん上がっている
600Hybridのような小型SUVは日本市場でも各社から発売されている。街中でホンダWR-Vを見かけたが、思っていた以上に上質なクルマに見えた。実家の母にもオススメしたい感じだ。同じくインド生産のスズキ・フロンクスや、タイ生産の日産キックス、MAZDA・CX-3が逆輸入されている。大人気のジムニー・ノマドもインドからの輸入を1300台/月から3300台/月に増やして、4日間で5万台という破格の受注に対応するらしい。日本メーカーだけでなく世界中のメーカーが、現在のところ最も力を入れて開発しているのが「BセグSUV」なのかもしれない。
毎年発売される「世界の自動車オールアルバム」を見ていると、BセグSUVの増殖ぶりが凄まじい。現地生産必須の中国市場とBセグ不在のアメリカ市場には、第三国で生産して輸出というビジネスができないが、インド、インドネシア、パキスタン、ブラジル、バングラディシュ、メキシコ、日本、フィリピン、ベトナムといった人口が多い国々と、欧州やオーストラリア、ニュージーランドといった高所得地域に幅広く導入できるので、BEVなどの市場変化によるリスクを避けるには一番信頼できるジャンルなのだろう。
小さくても高級車
日本市場に導入されている欧州メーカーの小型SUVは、フィアット、ジープ以外に、シトロエンC3エアクロス、プジョー2008、DS3、ルノー・キャプチャー、VW・Tクロス、MINIカントリーマン、アウディQ2と多岐なブランドに渡っている。それぞれに日本市場での販売台数の中ではブランド内のエース格のモデルといえるものばかりだ。ライバルが多過ぎて過当競争気味なこともあって、デザインなどの作り込みも各社それぞれに工夫を凝らしていて、600Hybridが400万円を下回る戦略価格で導入されるなど、インポーターもギリギリの戦いをしている。
車格至上主義が根強く残る日本市場では、メルセデス、BMW、ボルボ、スバル、MAZDなどのアメリカ向けモデルを、「大きくて取り回しに気を使う」「燃費もかなり悪い」などとちょっと嬉しそうにブツブツ言いながら乗るのが定番になっている。とりあえずエコなど考えずに、ランクル250、アルファード、CX-80のような設計の大前提が「5m級であること」な、メーカーがユーザーの知能レベルを舐めているとしか思えないモデルが優先的に作られている。
MAZDAの巨艦主義はどうなのか?
394万円のCX-80と、399万円のフィアット600Hybridのどちらが高級車か?後車だろう。どちらが走りが楽しいか?これまた後車だろう。メーカーの方針にはいろいろあるのだから安易な比較はできないけども、今から20年ほど前のMAZDAは欧州市場での成功を目指してフィアット・プントみたいなデミオと、アルファロメオ156みたいなアテンザで大成功を収めた。イタリアブランドのようにセンスの良かったMAZDAはどこへ行ってしまったのか!?
2007年に登場のデザインが今でも極上過ぎる「500」、2014年に登場して10年経過もコダワリのレンタカー車として普遍的なデザイン美を誇る「500X」は、イタリアデザインは、MAZDA車のようなロングサイクルに合っている。5m級などとサイズを決めずに、必要に応じた大きさのクルマをバランス良くデザインしたものは賞味期限が長いようだ。CX-5もキャビンをコンパクトにデザインしたところが秀逸なのに対して、CX-60、ハリアーはキャビン後部が間延びして見えてしまう。
イタリア車への憧れ
イタリア車が車格に拘らないのは、イタリア国内の道がとても狭いからという理由だけでなく、「イタリア車である」というプライドや余裕がそうさせるのだろう。世界最高の自動車用エンジンを生産するのはイタリアだ!!ドイツでも日本でもなくイタリアだ!!楽しくなければイタリア車ではないし、ドイツ車や日本車と違ってイタリア車は運転技術を要求する。2気筒エンジンのトルクで上手く走らせる技術が求められる。ポルシェは誰が乗っても速いけど、フェラーリには腕が必要・・・。
長らく日本でも販売されてきた「500」や「パンダ」が廃止され、「500X」も生産終了が噂されていて、アバルトの695、F595もベース車が無いので終了する。アルファロメオは価格上昇が激しい。日本市場で500万円以下で買えるイタリア生産のエンジン車は、いよいよ消滅の危機を迎えている。スペイン生産のフィアット・ドブロ(ミニバン、ディーゼルのみ)を除くと、ポーランド生産の600Hybridが、庶民にも手が届く最後の「楽しいイタリアのエンジン車」になってしまうようだ。ゆえに日本市場で意外にヒットしそうな予感がする。
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